■ようやく出会えた清水さんに「備前屋」のこだわりを聞く

 おちゃらかでは長い間「ふくみどり」を取り扱ってきたが、生みの親である清水さんにお会いするのは今回がはじめて。ずっと会いたかった。

 「ふくみどりの味わいは、おちゃらかのお客さま、とくに東京の人に馴染むと思う。どこか果実を思わせる芳醇な香り、苦味が少なくすっきりと舌に残る繊細な旨味。世界緑茶コンテストで出会ったときは衝撃だった。おちゃらかの店頭でも積極的に試飲を勧めている。まだまだ知られていない東京近郊の銘茶をきちんと知ってほしいから」と思いの丈を伝えた。

 清水さんは「ダントンさんはお茶に関わる人の間では有名人。はじめてお会いしたのに、はじめてではないような不思議な感じです。東京のお店にうかがった際は、ダントンさんが不在で残念でしたが、いつかお会いできるとは思っていました。でも今回はあまりにも突然でびっくりしました」と笑った。

 そして清水さんは、備前屋のお茶づくりに対するこだわりを語ってくれた。

 狭山は茶産地としては寒い。その昔、国からの指令で寒冷地でも育つお茶の研究が始まった。1953年に「さやまみどり」が誕生。その後も品種改良が進められ、1986年に「ふくみどり」が生まれたという。

 清水さんの先代は、「さやまみどり」を中心に取り扱っていたそうだ。清水さん自身は、「さやまみどり」よりも香りが高い「ふくみどり」のよさを「微発酵」という、日本茶では珍しい独特の手法で引き出している。

 茶葉の微発酵で重要になるのは、茶葉を天日にさらしてしおれさせる「萎凋(いちょう)」という工程だ。急激な水分蒸散と紫外線で茶葉にストレスがかかると、茶葉は「萎凋香」と呼ばれる独特の香りを放つようになるのだという。

 清水さんのもうひとつのこだわりが、発酵を止めるための「熱処理方法」だ。日本茶の大半は発酵を止めるために茶葉を高温で蒸すのだが、茶葉を釜で炒る「釜炒り」にチャレンジした。狭山はもちろん日本全国でも、この手法を採用している生産者は数少ない。

 しかも、清水さんが手掛ける備前屋の「釜炒り茶」は、見た目も独特。台湾製烏龍茶では火入れの後にギュッと丸めて水分を出すため、仕上がった茶葉はクルッと丸まっている。清水さんは、「この工程を経ないほうが茶葉の魅力が引き出される。完全に丸まらない見た目も美しいと思う」と、そのこだわりを語ってくれた。

それぞれのお茶に対する考えに共有点を見出す

清水さんは自作のパネルで「萎凋香」について丁寧に説明してくれた
埼玉県日高市にある明治初年創業の「備前屋」。狭山茶の仕上げ加工、販売、茶葉の生産を行う
https://bizenya-cha.com

 

【vol.04「新茶の息吹に誘われて〜狭山茶2」】につづく

 

写真/冨田望    編集協力/セトオドーピス、田村広子