■駅から国立公園は始まっている

 国立公園の玄関口であるルアタール鉄道のハイムバッハ駅を降りると、もうそこから野生動物と人が共生する世界が始まっていた。

 たとえば、植え込みに建っている5mほどの柱の上には屋根だけがあり、軒下に壺のようなものがたくさんついている。これは集団で巣を作るイワツバメの仲間のための人工巣だ。

 さらに待合室の透明なガラスにはバードストライク(鳥の衝突)を防ぐため、ワシやタカなど猛禽類のシルエットシールが貼ってある。また、駅の横にはビジターセンターが併設されているので、マップや図鑑を入手したり、野生動植物の知識を得ることができた。

駅のホームに設置された、イワツバメのための人工巣

 筆者が今回訪れたバリアフリートレイルの名前は、「Barrier-free Wild Kermeter natural adventure centre(バリアフリー・ワイルド・カーメーター・ナチュラル・アドベンチャーセンター)」。訳すと、「バリアフリーな野生あふれるカーメーター自然冒険センター」といったところか。センターと言っても屋内の展示施設はなく、トレイル全体を指してセンターと呼んでいる。

 また、「Kermeter(カーメーター)」とはこの地域の高地を表す地名のこと。国立公園のHPによれば、カーメーターの尾根沿いにはブナやオークを中心とする落葉樹の森が約33km²(東京ドーム約30個分)に渡って広がっており、非常に生物多様性が豊かな場所だそうだ。確かに今回の森歩きでは、鹿、ネズミの仲間、野鳥、カエル、甲虫、蝶など、たくさんの生きものが見られた。

大木の根っこの隙間からネズミの仲間が顔を出した。集めたブナの実が散らばっている

■バリアフリーな仕掛けが随所に満載

 トレイルに入ると、ブナやナラなどの落葉樹とトウヒなどの針葉樹による混交林となっており、明るい森が広がっている。バリアフリーと銘打っているだけに段差や側溝がなく、道幅も広いので車椅子の方でもスムーズに移動できそうだ。

 要所要所に設置されているマップには、ドイツ語、英語、フランス語、オランダ語の他に、点字による解説が施されている。そして全ての文字や記号が手で触ってもわかるよう凹凸のあるブロンズでできていた。

 また、車椅子利用者のために、道ごとに6%とか5〜8%といった勾配に関する情報も記されている。調べると10%以上になると誰かに押してもらう必要があるようなので、このトレイルは全てのルートにおいて車椅子利用者が1人で散策できるように設計されている。

目の不自由な方でも触って理解できるマップ。緊急時に連絡する電話番号も記載されている

 1周6kmほどのトレイルには、さまざまな障がいを持つ方が楽しめるような展示が随所に仕掛けられていた。例えば、木道ゾーンに展示されていたキノコの彫刻。目の不自由な方が触って形をイメージできるよう、この森に生えるキノコの彫刻がずらっと並んでいる。プラスチックではなく木彫りなので温かみがあり、すべすべで気持ち良い。

 また木道の手すりにはロープが張ってあり、それを触って行けば次の展示にたどり着く仕組みになっていた。試しに目を閉じてロープを触りながら歩いてゆくと、A4サイズの3つの木箱に触れることができた。

 箱の正面を軽く押すと、それぞれの箱から森のざわめきが聞こえてくる。解説を見ると、「小さな嵐」、「大きな嵐」、「2007年に大被害をもたらしたハリケーン・キリル」のときの森の音だそう。どうりで1つだけ激しい音がする訳だ。

手で触ってこの森で見られるキノコを把握できる彫刻。1つ1つが丁寧な作りで、アーティストの作品のよう