今回は、ドイツ西部に広がるアイフェル国立公園の「バリアフリートレイル」を紹介する。ここは野生生物の豊かな生息地でありながら、私たちの森の見方、感じ方を変えてしまうような仕掛けが満載で、まるで森全体がミュージアムのような公園だ。
一方で、現在の調和した森からは想像もつかない過酷な過去を持っている。かつて、この森はケルト人やローマ軍など、さまざまな封建領主が支配してきた地域に位置する。その頃はブナやオークなど落葉樹を中心とする大森林が広がっていたが、牧畜や鉄生産が行き過ぎ、19世紀初頭に入ると、とうとう森が消滅。その後、外来種のトウヒが植林され、林業のための暗い森としての道を歩むこととなった。
第二次世界大戦時にはナチスの軍事演習場となり、戦後もベルギー軍やNATO軍が民間人の立ち入りを禁止した。こうして半世紀以上手付かずとなったことで、皮肉にも森は本来の姿を取り戻してきたのだ。
トウヒに代わり、再生してきたブナやオークの若い森を調査すると、オオヤマネコ、オオカミ、ビーバーなど11,200種以上の生きもの、そして2500種以上の絶滅危惧種が生息していることがわかった。
こうしてとうとう2004年、アイフェルの森は国立公園となった。その中心部に、障がい者も高齢者も豊かな自然体験ができる1周6kmほどのバリアフリートレイルがある。障がい者や高齢者のためのさまざまな仕掛けは、健常者の私の五感をも刺激し、また森の解像度を上げる魔法のような場所だった。