「最高のウォーキングトラックを使い、ニュージーランドでもっとも畏敬の念を抱かせる風景の中を歩こう」

 ニュージーランドの国立公園を管理する環境保全省(Department of Conservation:DOC)のHPにこんな魅力的なフレーズで紹介されているトレイルがある。その名もグレートウォークス(Great Walks)。手付かずの原野を楽しめるトレイルでありながら、その自然を次世代まで残す仕組みが整っている世界有数のトレイルだ。なかなか海外に行くことができない今、数年前に歩いたグレートウォークスの美しい自然とその歴史、そして自然を守るために彼らが取り組む素晴らしい仕組みについて、前後編に渡ってお伝えしたい。

■大自然を満喫しつつ、しっかり保全もするための国の政策

ルート上にはしっかり整備された山小屋が3つある

 ニュージーランドには13の国立公園があり、無数のトレイルがある。なかでもグレートウォークスは壮大な景色や希少動植物の生息地であることに加え、山小屋もしっかり整備された選ばれしトレイルだ。2022年現在、北島に3つ、南島に7つ選定されている。筆者は南島のマウント・アスパイアリング国立公園とフィヨルドランド国立公園を結ぶ「ルートバーン・トラック」なるトレイルを2泊3日で歩いた。

 このトレイルがある場所は、上記2つの国立公園を含む4つの国立公園が集まった広大なエリアで、先住民族マオリの言葉で「テ・ワヒポウナム」という総称がつけられている。「ポウナム(グリーンストーンという鉱物)がある場所」という意味だ。4つの国立公園は共通して氷河の影響を受けた地形であり、その全体が世界遺産に指定されている。

氷河に削られた渓谷は太古の地球を感じさせてくれる

 最初に、ルートバーン・トラックの旅でもっとも感動したことを言っておきたい。それはずばり、こんな絶景を独り占めしていいのだろうかと思うほど、人に会わずに歩けたことだ。

 日本でいえば、ハイシーズンの北アルプスや八ヶ岳のような人気トレイルでありながら、なぜこんなに人が少ないのか。それは、人による環境負荷を減らすため、国の政策によって入山制限をしているからだ。その方法として、グレートウォークス利用者はDOCのHPから、ハットと呼ばれる山小屋かキャンプ場を予約しなくてはならない。そのお陰で約32kmのコースを1日で走り抜けるトレイルランナー以外、ハットとキャンプ場利用者だけがトレイルを楽しむことができる。

 また、ハットの管理人はDOC職員が務めているため、我々ビジターに向けて自然や歴史の解説もしてくれた。ニュージーランドでは、大自然を楽しみつつ、自然をしっかり保全するサステナブルな仕組みが機能していると感じた。