「焚き火を使った料理本を作ってほしい」と依頼をいただいて以来、この本には面白い発想のレシピ、遊びの要素を加えたインパクトのあるレシピを収録したいと考えていた。『焚き火料理の本』に掲載した「炙り牛」というレシピは、まさにそれ。イメージは、わたしが5歳の時(1974年)にテレビで放送していた『はじめ人間ギャートルズ』というアニメに出てくる骨付き肉だ。マンモスの肉という設定で、肉の塊の両脇から骨が出ていて、それが炙り焼きされていた。登場人物たちが齧り付いて食べている姿は、じつに美味しそうだった。

 さすがに、現代社会でマンモスの肉は手に入らない。そこで、牛モモ肉の塊に棒を刺して、左右から細めのチェーンでぶら下げて焼いてみることにした。他の料理を数種類作りながら、のんびりじっくりと焼き続け、夕方に焼き上がるという長時間料理だったが、これはこれで楽しめた。

冬の寒い日に800gの塊肉を5時間かけて焼いてみた

 肉が温まって脂が溶け出し、焚き火の上に落ち始めると、炎が上がってすぐに焦げてしまう。そのため、ポイントは炎に直接当てない距離に吊るすこと。ちょっと遠いかな、と感じるくらいの位置に吊るし、手をかざして熱を感じる距離を保つとよい。

吊るす位置と距離、火の具合は常にチェックする

 火加減を調整する練習にもなる料理なので、焚き火のスキルアップにも繋がる。まずは小さめの肉から始めてみると、失敗が少ないだろう。薪が選べるならば、一気に燃え上がってしまう針葉樹よりも、じっくりと燃やし続けられる広葉樹がおすすめ。