■天候の変化に要注意。先を読んで行動しよう
天候や雪の状態によって登山の難易度が大きく左右されるのは、雪山登山の常である。ましてや3000mクラスの稜線上は、想像を絶するものがある。ひとたび天候が牙をむいたら地獄のよう。経験者でもその過酷さは耐えがたい。良くも悪くも急変する天候を含め、先の状況を予測してなるべく迅速に行動をすること。防寒対策は万全でのぞみたい。悪天候のなか、無理をすると低体温症や凍傷のリスクが非常に高まる。
加えてパーティーの足並みにもよるが、登山のスピードは重要である。取材時は、写真を撮りながらでも往復の所要時間は3時間ほどだった。ただし、僕自身が夏冬ともに幾度も歩いているルートなのと、コンディションに恵まれただけである。余裕をもったペースでも、夏のコースタイム以上で歩ける体力と技術は最低限必要だ。天候悪化の兆しがあるときは早めの決断と行動を。このルートなら脱出するのも早くまた再挑戦もしやすいので、けっして無理をせずに安全に戻ることを考えよう。
■装備と技術は確実に身につけてから
本来の冬期山行なら避けて通れない、長いアプローチを乗り物を利用することで非常に楽に登れるルートで人気だが、そのせいもあり非常に事故が多い。歩行技術をしっかりと身につけてから挑みたい。コンディションが良くて歩きやすい状態なら夏より歩きやすいのは確かだが、新雪時のラッセル(※2)で苦労したり、凍っていたり、クラスト(※3)など歩行技術がシビアに求められる状況もある。雪の斜面はわずかな要因で変化する。数メートルで状態がまるで違っていたりするので、見極める能力も肝心だ。
とくに核心部は「八丁坂」の下りパート。上部はかなりの斜度感がある。実際に取材時もきちんと歩けている登山者は皆無に近かった。斜面の状態はそこまで悪い状況ではなかったが、下りで苦戦している登山者が非常に多かった。登りのときに振り返って傾斜に恐怖があるようだったら、その時点でいさぎよく引き返すのが賢明かもしれない。
装備の面では、防寒や緊急時に対応できるようにしておくことはもちろん、道具は正確に使いこなせるようにしておこう。クランポンやアックスは装着していればいいというものではない。基本的な使い方、状況に応じて対応できるようにしっかりと身につけておく必要がある。間違っても新品をそのまま持って来たりしないように。雪崩は巻き込まれないような行動をとることが一番大切だが、アバランチギア(※4)も装備に加えておこう。ビーコン(※5)を装着していない登山者が非常に多かったのも気になった。