■千畳敷カールをいく。後半の「八丁坂」が核心部

「八丁坂」上部の急斜面。雪面は柔らかいところと硬いところが入り混ざっていた

 クランポンを装着したら、ホテルの右手に下りカールの底を歩きだす。広大な雪原のただ中を歩くのは開放的で気持ちいい。けれど、雪の急斜面がそびえるカール内は、大規模な雪崩が起きたら逃げ場所がなくひとたまりもない。基本的には乗越浄土までは休憩なし、必要なら立ち休憩(※1)のみで一気に登りたい。
 風もなく(ここで風が吹いているようなら上部は歩行困難)登りだけなので、ちょっと肌寒いくらいでスタートするとちょうどいい。すぐに程よくなるだろう。もし体温調整や水分補給をするなら、上部への注意を怠らないように。間違っても山に背を向けて座っての休憩は避けたい。
 「八丁坂」上部はとくに傾斜が強く高度感があって気分はアルパインクライミング!? 雪の状態も下とは違っている。滑落のリスクもあるので慎重に。お互いに転倒、滑落時にクランポンやアックスで怪我をさせたり巻き込まれないように、前後の登山者と距離を開けるのも大事だ。

 

■待ち受けるのは天国か地獄か。天空の稜線歩き

中岳より木曽駒ヶ岳山頂をのぞむ

 「乗越浄土」から先は稜線上のセカンドステージ。四方の眺望が一気に広がる。タイミングが良ければ天空の楽園のような光景を見せてくれる。そのかわりに吹きっさらしとなり、晴れていても嘘みたいに強風が吹いていることが多い。その上、風を遮るものがほとんどなく逃げ場がないので、のんびり休憩している方が疲労してしまう。

中岳より振り返った景色。雪と氷に閉ざされた宝剣岳、さらに南へ連なる中央アルプスの山塊

 ここからは中岳を越えてほとんどまっすぐなのだが、視界不良のときは対象物もなくルートが不明になりやすい。風雪で顔も上げれない程になるときもある。そんなときは足跡もすぐに消えてしまうので頼ることもできない。ルートファインディングの技術が必須になってくる。ちなみに夏の巻き道はリスクが高いだけなので立ち入らないように。

木曽駒ヶ岳山頂。伊那谷と木曽谷側、それぞれに神社がある。木曽側から撮影

 そんな厳しい環境だけに、自然の創り出した造形美は夏山とは違う美しさがある。前方ばかりに気をとられていると絶景を見損なうのでご用心。振り返ると宝剣岳から南へ連なる中央アルプスの白く輝く山並みや三ノ沢岳。もうひと登りした木曽駒ヶ岳山頂からは八ヶ岳、御嶽山や乗鞍岳、北アルプス方面までよく見えて、噓偽りなく360°の大パノラマが楽しめる。

※1 止まって立ったまま休憩、息を整えること。短時間だが、意外なほど効果がある