◼️山小屋もルートの魅力のひとつ
そしてもうひとつ、このルートを語るうえで外せないのが、朝日小屋です。
朝日小屋は、朝日岳から西側に1時間ほどの位置にあり、女性管理人の清水ゆかりさんが切り盛りする人気の山小屋です。定員は50名程度と限られるため、宿泊は完全予約制(テント泊については予約不要)。連休中の予約は争奪戦になることも珍しくありません。
朝日岳の山頂を越え、小屋の姿が見えた瞬間に思わず声が出ました。
「なんてかわいい形の小屋なんだろう」
この日は昼過ぎには到着できたので、景色を眺めたり、管理人さんとおしゃべりをしたりしながらゆっくり過ごしました。小屋周辺はなだらかに開けていて、お散歩にも最適。あぁ、なんて贅沢な時間。
花と景色だけでも十分満たされたのに、夜にはまた別の楽しみが待っていました。朝日小屋名物の夕食です。朝日小屋ではレトルトに頼らず、できる限り手作りの料理を提供しています。歩き疲れた登山者に、新鮮な食材を食べてほしいとのことです。
私が訪れた2024年8月は、ホタルイカをはじめ、お刺身や自分で仕上げるラーメンまで登場しました。しかも、ご飯もラーメンもおかわり自由(年によって変わるかも)。ビール片手に、どれも美味しくいただきました。平日にもかかわらず、満室だった理由がよくわかりました。
◼️ここから眺める夕方の雲海は、まさに海でした
しかし、私がもっとも感動したのは夕食後のことでした。何気なく外へ出ると、とんでもない景色が広がっていたのです。
小屋の近くには、日本海まで繋がる栂海新道(つがみしんどう)へと続く木道があります。その木道に立つと、まるで道そのものが夕日へ続いているように見えたのです。昼過ぎに湧いてきた白い雲がやがて雲海となり、本来なら見えるはずの日本海は雲海の向こうに隠れていました。しかし、雲海もまた、ひとつの「海」でした。日が暮れたあとも、絶えず移り変わっていく空から目が離せず、飽きることなく、空を眺め続けました。
私は高山植物の花々と朝日小屋に泊まることを目当てに、朝日岳に登りました。けれど、今振り返って真っ先に思い出すのは、この日の入りの景色です。人生で見た夕景のなかでも、間違いなく特別なひとつでした。
◼️雪倉岳に続く稜線上も花の宝庫
翌朝、予報に反して、小屋の周囲は白いガスに包まれていました。
「これはダメかもしれない」
そう思いながら、雪倉岳へと向かいましたが、歩き始めると徐々に青空が広がっていきました。その登山道脇には、前日にあれほど花を見たにもかかわらず、前日とは違う花々も次々に現れました。一体、この2日間で何種類の花を見たのでしょうか。
雪倉岳の山頂に立つと、正面に見える白馬岳の堂々とした姿に言葉を失います。ここから先は、その雄大な姿を正面に見ながら、少しずつ下っていき、登山口の蓮華温泉に戻ります。
2日目は、山小屋から雪倉岳までのコースタイムは4時間ほど、雪倉岳から蓮華温泉までは7時間ほどで下山完了です。
初夏の朝日岳と雪倉岳は、単なる花の名山ではありません。北アルプスの奥深さと、人の温かさ、そして忘れられない景色に出会える場所です。
朝日小屋、手作りの温かな食事、夕日に染まる木道と雲海、そして下山口の蓮華温泉に待つワイルドな露天風呂。どれも期待を上回る、言葉では語りきれないものでした。
8月に北アルプスを歩くなら、ぜひ候補に加えてみてください。
<ルート情報>
1日目:蓮華温泉 → 吹上のコル → 朝日岳 → 朝日小屋 約7時間
2日目:朝日小屋 → 雪倉岳 → 雪倉岳避難小屋 → 2,482m分岐 → 蓮華温泉 約11時間
注意事項:危険箇所は特になし。8月はアイゼン不要。稜線上の水場は枯れ気味なので、飲料は多めに持った方が安心。
下山後のおすすめ温泉:蓮華温泉(蓮華温泉ロッジで受付をしたら、そのままどぼん!)、道の駅おたり 深山の湯(*長野方面から帰る場合)
おすすめグルメ:蓮華温泉のスイカ、道の駅おたりのソフトとコーヒー