日本国内の旅や山登りを紹介するYouTuberとして、18万人もの登録者を誇る安涼奈(アリョーナ)さん。先日、自身初となる書籍『日本で山登りはじめました 外国人の私が感じる特別な魅力(KADOKAWA刊)』を刊行しました。

2014年から日本に住み、5年ほど前からはすっかり登山にハマったという安涼奈さんは、日本各地を旅してきました。そんな彼女の外国人ならではの目線から、我々日本人でも気がつかない日本の魅力を紹介する書籍は、自身のYouTubeチャンネルのハイライトを凝縮したような一冊に仕上がっています。
ここでは、その一部をダイジェストとして覗き見。この4年半で600座もの山に登った中でも、安涼奈さんが選ぶ一番過酷だった山「北海道・幌尻岳」について紹介してもらいましょう。
◼️累積標高差は3,000m近い、どう登っても過酷な百名山

一番好きな都道府県や一番好きな山を聞かれると答えに困るが、一番過酷だった山はすぐ選べる。北海道日高山脈の最高峰、幌尻岳だ。百名山なので、全山踏破を目指す人はみんな必ず登らなければいけない山だが、楽をして簡単に登る方法は存在しない。
北海道らしく、幌尻岳は山の奥深いところに眠っている。幌尻岳自体は標高2,000mちょっとしかないものの、登山口の標高が低く、私が挑戦したコースの累積標高差は3,000m近くもあった。コースは主に2つある。どちらも長く、高低差もなかなかのものだ。
私が歩いたチロロ林道とは反対側に延びるコース上に、ポロシリ山荘という山小屋がある。行きと帰りに1泊ずつこの小屋に宿泊すれば比較的楽に登頂できるのだが、事前に予約が必須。予約は争奪戦で、予約開始日には宿泊可能な日にちがすべて埋まってしまうという。この山荘の予約に成功するのは奇跡に近いといわれているけれど、小屋を使って2泊3日で登るのが、体力的に唯一の「まし」な方法だ。
小屋の予約がとりづらいこと以外に、まだ問題がある。天気と増水だ。日高山脈にある他の山もそうだけれど、主峰の幌尻岳も例外ではなく、渡渉(川を渡ること)は避けられない。今回のルートは、登山当日天気がよかろうと10か所ほど渡渉ポイントがあって、前日に大雨でも降ろうものならば、増水して渡れなくなってしまう。つまり、たとえ小屋の予約が奇跡的にとれて、当日の天気がよかったとしても登れない可能性がある。
せっかく北海道までやってきて登れなかったら、あまりにも悔しすぎる。そんな事態を避けるために私が選んだのは、本来ならば2泊3日のコースを1日で突破する作戦だ。まずは北海道に入り、近くの街で待機しながら天気と沢の状況を随時確認し、アタックできる日を待った。