群馬と長野を結ぶ旧中山道にある碓氷峠。明治期に難所を越え日本の近代化を支えた鉄道は役目を終え、高速道路や新幹線といった近代交通網に主役を譲りましたが、積み重ねた歴史と豊かな自然は令和のいまも旅人を魅了しています。

 

軽井沢駅からも近い旧碓氷峠見晴台。長野と群馬の県境に位置するだけでなく、太平洋側と日本海側の分水嶺でもある絶景スポットだ

 そんな碓氷峠で注目したいのが、歴史の向こう側に消えてしまった鉄道の記憶を探す旅を体験できる「MELODIC LIGHT WALK(メロディック ライト ウォーク)」。碓氷峠の静かな夜の自然の中でしか味わえない、特別なナイトアクティビティを体験しました。

 

■ゆるやかな坂を歩いて感じる100年超えの鉄道文化

 「メロディック ライト ウォーク」は、碓氷峠で知られる群馬県安中市の観光機構が手がける没入型のガイドツアー。日中に行われる「廃線ウォーク」のコースを使い、夜間向けにアレンジしたものです。

 

「メロディック ライト ウォーク」は軽装で楽しめるのも魅力

 碓氷峠という豊かな自然の中で楽しむアウトドアアクティビティですが、登山やハイキングの経験がなくても大丈夫。普段着&スニーカーというカジュアルな服装のまま、光と音と物語を体験できるという気軽さも人気の理由です。

 

自然とナイトコンテンツが一体となる「メロディック ライト ウォーク」

 夜ツアーに参加する前に、まずはこのイベントのベースとなっている昼の「廃線ウォーク」の魅力から紹介します。

 

めがね橋の奥を走るのは信越本線新線のEF63形電気機関車(撮影/1990年代、写真提供/安中市観光機構)

 江戸時代に峠越えの宿場町として栄えた碓氷峠エリア。明治26(1893)年には群馬特産の絹の生糸を貿易港の横浜まで運ぶため、横川〜軽井沢区間(通称・横軽線)が開通し鉄道の街として日本の近代化を支えました。

 

明治25年12月に完成した「めがね橋」こと「碓氷第三橋梁」。日本最大級のレンガ造りの4連アーチ橋で、橋の上は無料の遊歩道「アプトの道」として整備されている

 「廃線ウォーク」は、1997年に惜しまれつつ104年の歴史の幕を下ろした線路やトンネルなど全行程約11km、標高差約553mを歩けるという特別なツアーです。

 

山を縫うようなトンネルの中は真夏でもヒンヤリと涼しい

 コースの特徴は、平坦な地形の軽井沢と急峻な碓氷エリアをつなぐ“片峠”というユニークな地形。重要文化財の「めがね橋」や「旧丸山変電所」といった鉄道遺構をはじめ、深い森に囲まれ普段は立ち入ることのできない廃線内のトンネルなども見ることができます。

 

昼の「廃線ウォーク」は道のり約11km。傾斜も緩やかで、サポーターやスタッフの手によって歩きやすく整備されている

 道中には1kmの距離で66.7メートルの高低差がある、当時日本の鉄道で一番勾配が急だった区間が含まれます。もっとも、傾斜が急なのは重い荷物を運ぶ列車での話で、人間にとっては「ちょっと坂になっているかな?」と感じる程度のごく穏やかな斜面。

 

「廃線ウォーク」では、旧熊ノ平駅でのランチに碓氷峠名物の「峠の釜めし」がふるまわれる

 中継地である「旧熊ノ平駅」の周辺は平地ですが、ほぼ均一なゆるい傾斜の廃線跡を歩くという全国でも珍しい体験ができます。

 

横川駅での連結風景。かつて軽井沢方面に向かう列車は碓氷峠専用の機関車の力により峠を越えた(撮影/1980年代、写真提供/安中市観光機構)

 廃線は勾配がゆるやかなだけでなく、同伴するガイドによる解説やトンネル内の暗さを活かしたイベントなども楽しみながら、アウトドア初心者でも気軽に歩くことができます。

 

山間のトンネルとトンネルをつなぐ谷に掛かる信越本線新線の橋梁は、「廃線ウォーク」の名物スポット

 ナイトウォークは昼のツアーよりぐっと短い周回コースとなっているので、ファミリーやカップルなどでも気軽に参加できる点も大きな魅力なのです。

 

信越本線新線の橋梁から眺めるめがね橋の姿は「廃線ウォーク」のハイライトのひとつ
昼のツアー「廃線ウォーク」について詳しく見る

 

■光と音の夜の廃線ツアーに出発!

 「メロディック ライト ウォーク」のコースの道のりは約2km。所要時間は約50分となります。

 

レンタルのランタンが用意されるので足元も安心

 碓氷峠エリア観光のハブである碓氷峠の森公園にある内の「天然温泉 峠の湯」で受け付けを済ませ、足元を照らすLEDランタンを受け取ってツアーはスタート。ウェア類はアウトドア用である必要はなく、足元も歩きやすい靴なら十分とのこと。

 

ライトアップされたトンネルはナイトツアーでしか体験できない風景

 コース順路に従って歩いていくと、夜の木々が幻想的なライティングで彩られる中、ゆったりとした音楽が流れ、碓氷峠から列車が走り去った“その後の物語”の世界に入っていきます。

 

“大切なもの”を物語の主人公たちと探す

 そこで参加者は碓氷峠専用の電気機関車として活躍した2台をモチーフにしたキャラクターたちといっしょに、“大切なもの”に出会う小さな旅に出ることになります。

 

現役時代の碓氷峠専用の電気機関車。右側のレンガ造りの建物は旧丸山変電所(撮影/1990年代、写真提供/安中市観光機構)

 機関車をキャラクター化したということで、「子ども向けかな」という考えは誤解でした。ツアーを終え再び夜の静寂に包まれると、“現在の碓氷峠”に引き戻されると同時に、この地で人々が積み重ねてきた歴史や文化が心の大切な部分に残されていることに気づかされます。

 

ツアーを終えると碓氷峠の歴史が自分の中にしっかりと残される

 一人でじっくり向き合うのも素敵ですが、大切な人と分かち合いたくなる1時間弱の短いツアーでした。いつかは電気機関車が運行していた線路を歩く昼の廃線ウォークにも参加しようと思わずにはいられない体験となりました。

 

夜のツアー「メロディック ライト ウォーク」について詳しく見る