■ガスのなか、癒しでしかない! 天空のお花畑

稜線に近づくにつれ、徐々に高山植物の花々が目立ちだします。鮮やかな黄色のミヤマキンポウゲやシナノキンバイ、大ぶりな白い花のハクサンイチゲなどが、斜面の緑に点々とアクセントを加える様子に、夏山登山にきた醍醐味を感じずにはいられません。
やがて小太郎尾根に合流して稜線歩きが始まります。晴れていたら絶景の一部になっている自分の姿に酔いしれるのですが、辺りは幻想的な白いベールのなかです。照りつける太陽に焦がされることがないだけマシだと自分を慰めつつ、淡々と歩みを進めます。

立ち止まれば吹き上げる風が涼しく、何よりも登山道の脇に咲く花々に癒されます。ハクサンイチゲに混ざってチョウノスケソウやミヤマダイコンソウ、ミヤマオダマキ……。イワベンケイがブーケのような姿で、岩にしがみつくように咲いています。ちなみに固有種であるキタダケソウは咲き終わったようで、わずかに花の形跡を残しているのみでした。

じわじわと岩稜をたどり、ようやく着いた広い山頂は相変わらず白くモノトーンの世界です。富士山どころか周囲の景色もほとんど見えません。ガスの向こうに見えるはずの景色に思いを馳せ、山頂を後にしました。

■わずかな晴れ間に歓声があがる! 稜線の午後のひととき

ゆっくりと下っていくと北岳山荘へ。時刻は14時前。ひと息ついていると、人々が次々と小屋から出ていく気配がしました。ガスが抜けたようです!
夕食の時間も迫る午後も遅い時間、カメラやスマホを手に小屋やテントから出てきた登山者たちは、思い思いのアングルで撮影したり、山を背景にポーズを撮ったりと大忙しです。
「これが見たくて登ってきた」
「やっぱり山はこうじゃなきゃ!」
傾いた日差しに照らされる人々の笑顔、幸せな時間が流れる稜線でした。そのまま夕景にも期待していましたが、やがて山々はゆっくりと白いベールに覆われていきました……。