梅雨が明ければ、夏山シーズン本番はすぐそこ。登山者の皆さんは、準備に余念がない時期でしょう。

 しかし、いくら万全に備えをしていても、熱中症や捻挫、落石による怪我など、山の中でのトラブルは避けられないこともあります。そんな、いざという時に頼りになる存在が「山岳診療所」です。

 2021年の開設以来、八ヶ岳唯一の山岳診療所として安全登山啓発活動を行ってきた「赤岳鉱泉山岳診療所」に、その活動内容について伺いました。

◼️“山の中の救急外来”のような存在

八ヶ岳エリアで唯一の山岳診療所

 「山岳診療所」という存在に馴染みのない方も多いかもしれません。

 簡単に説明するならば、山岳診療所とは登山中のトラブルにその場で対応する“山の中の救急外来”のような存在。山岳地域での外傷、体調不全などに対して、救急初期対応(ファーストエイド)をメインとする医療機関です。

 八ヶ岳にある赤岳鉱泉・行者小屋では、登山者に安全に登山を楽しんでほしいという願いのもと、古くから安全登山啓発活動を行ってきました。その一環として、2021年に開設されたのが「赤岳鉱泉山岳診療所」で、南八ヶ岳では救助活動の拠点にもなっています。

冬季も開所するのは、八ヶ岳という立地ならでは

 北アルプスなどの山岳診療所は、7〜9月の夏季に限定して開所することが一般的で、「夏山診療所」とも呼ばれます。

 しかし、赤岳鉱泉山岳診療所は日本国内では初めて、冬季も開所する唯一の診療所です。ゴールデンウィーク活動、夏季活動、冬季活動と3つの期間に分けて、ほぼ通年活動しています。

救助活動の拠点としても機能している

 運営の中心は、日本登山医学会に所属する国際山岳医と国際山岳看護師ら、山岳医療の専門家が立ち上げたボランティアによる医療チーム「赤岳鉱泉山岳診療所運営委員会」。診療所の開設期間中は、日本登山医学会所属の山岳医、山岳看護師を中心に、診療所主催のワークショップを受講した医療従事者が1活動2名体制で常駐し、登山者の外傷や高山病、体調不良、凍傷など、様々な事例に救急対応を行ってきました。

 驚くべきは、全ての診療活動が無償で提供されていること。“診療費が理由で受診をためらい、事故が悪化しないように”との思いが、その活動を支えています。