■イモムシが桜に集まる理由

 ところで、このような多様なイモムシたちは、なぜ桜に集まるのか? その理由は”桜の葉を食べるため”である。

 身近で知名度の高い桜の品種といえばソメイヨシノだが、ソメイヨシノは花が咲いた後に葉を出す。そのため、花が散った後こそが桜で虫観察をする良いタイミングなのだ。

イモムシは桜の”葉”を食べに集まる

 ちなみに、草食の虫たちが餌として食べる植物のことを「食草」「食樹」という。虫たちがどのような植物を好むかは種ごとに異なる。なぜこのようなことになるかというと、虫には”食べられない葉”があるからだ。

 植物にとって自身の葉を食べる虫は、非常に厄介な敵である。そのため、それぞれの植物が虫に葉を食べられないために対策を取っている。毒を作ったり、虫の嫌がる臭いを出したり、咀嚼を阻害する成分を出すなど、さまざま工夫をしているのだ。そのため、それらの防壁を突破した虫しか、葉を食べることはできない。

 このような理由で、植物には虫に葉が食べられやすいものとそうでないものがいるのである。ところが桜は虫に対する防壁が薄いのか、様々な虫に葉が食べられるため、その樹上で多様な虫が観察できるのだ。

■春の桜に集まる、面白いイモムシたち

 春の桜の葉には、大小さまざまな幼虫たちが木の枝や葉を伝って歩いている。その中には、ヒョコヒョコ変わった歩き方をする「シャクガ」の仲間の幼虫、主に晩秋〜早春に成虫が活動する蛾「キリガ」の仲間の幼虫、顔に八の字のある毛虫「マイマイガ」の幼虫と、じつにバラエティ豊かだ。

桜にいたキリガの仲間の幼虫

 虫に興味を持つことで、桜を楽しめる期間がもっと長くなる。日本の四季をより満喫することができるので、ぜひ注目して観察をしてみてほしい。