「カメムシが多い年は大雪が降る」
昔からまことしやかに囁かれている説である。
きっとあなたも一度は耳にしたことがあると思うのだが、果たしてこの説は本当なのだろうか? 真偽のほどを検証しつつ、カメムシの生態について解説していこう。
■調査結果から考えられる結論としては……
じつはこの説を検証するための調査が行われている文献があった。
その調査結果の「まとめ」を見てみると、『クサギカメムシの飛来数と降雪量には関係はみられなかったが,スコットカメムシでは飛来数が多いと降雪量が多くなることが示唆された.』(渡辺護、2021「富山県におけるカメムシの越冬飛来に関する長期観察」『ペストロジー学会誌』36巻、1号 p.5〜11より)とある。
この調査結果から考えられる結論としては、”種(スコットカメムシなど特定のカメムシ種)によっては真実である可能性があるが、そうでない場合も多くある”、となりそうだ。
冒頭の説では、主語を「カメムシ」と広い範囲を対象にしているが、じつは広義のカメムシには多様な種が含まれる。「カメムシ目」という分類グループで定義すれば、セミも含まれるし、アブラムシもその中に含まれる。「カメムシ亜目」まで狭めても、昨今話題のトコジラミや水生カメムシ類と呼ばれるアメンボやタガメなども含まれるのである。
少し意地悪な捉え方をしてしまったが、この説で指している「カメムシ」は、文脈から考えると”屋内に侵入して越冬する生態を持つ種”を指しているのだろう。この性質を持つカメムシたちは人がよく見かける身近な虫たちであり、秋(10〜11月頃)になると屋内で見かける機会が多くなるからだ。
ただ対象の定義を上記のような種まで狭めたとしても、降雪量との相関がある種がその中にどれだけいるかはわからない。さらに、本調査は富山県で行われているが、異なる地域だったり、その他の要因によって結果が変わる可能性も考えられる。
以上から、その年の降雪量に相関した行動を取るカメムシもいる可能性があるが(この生態自体はとても面白く、興味深い)、地域性や種ごとの生態などを考慮せずに説を鵜呑みにして降雪量の予測をするのは控えた方がよさそうである。