「冬のチョウは分厚い緑の葉の裏にいる」
これは、僕が自然観察をする中で気がついた事象の1つだ。冬は虫が見つけにくい季節ではあるが、虫の生態を知ると冬でも虫を見つけられる可能性が上がる。上記の事象には、虫たちの「越冬」における生態が深く関係している。
というわけで早速、その理由を解説していこう。
■冬は多くの虫にとって厳しい季節
多くの虫にとって冬は厳しい季節だ。というのも、昆虫は基本的に外温性(体温が外気温に依存する動物たち)だからだ。体温が下がった動物は動けなくなる。さらには凍死してしまうこともある。また、冬はえさとなるものも少ないため、活動に必要なエネルギーを得にくい。
そのため、冬になると昆虫の多くは活動を休止する。虫ごとに、じつにさまざまな方法で冬の寒さを乗り越えていて、その工夫がおもしろい。
例えばアゲハチョウは、省エネかつ耐寒性のある「さなぎ」の形態で越冬する。カブトムシは地表よりも温度変化の少ない土の中で越冬する。また、カメムシの中には人工物を利用して越冬するものもいる。
多くの虫は人目に付かないところに隠れて越冬をするため、冬は虫を見る機会が少なくなるのだ。
そんな冬でも虫に出会う確率の高い場所がある。その1つが「常緑広葉樹(じょうりょくこうようじゅ)」。この常緑広葉樹の”葉の裏”を見てみると、ウラギンシジミやムラサキシジミ(※)などのチョウが、じっと隠れて越冬する姿が見られることがあるのだ。
※ムラサキシジミは常緑樹に絡まった枯れ葉に隠れていることも多い
■冬にチョウに出会えることがある「常緑広葉樹」はどんな樹木?
さて、チョウの隠れ蓑になる常緑広葉樹とは、一体どのような特徴を持つ樹木なのだろうか。
樹木には、冬に”葉を落とすもの”と”葉を残すもの”がいる。秋が深まると葉を黄色や赤色に染め、その後冬になると葉を落とすもの。このようなタイプの樹木のことを「落葉樹」と言う。サクラやコナラ、ミズキなど明るい森を構成する樹木たちがそうだ。
一方で、冬の間も葉を落とさず、夏と同じように緑の葉を保つ樹木が「常緑樹」だ。その中でも、広葉樹のものを「常緑広葉樹」という。ツバキやサザンカ、カシ類などが含まれる。
常緑広葉樹の葉は分厚く、表面にツヤがあってテカテカしているものが多い。葉の表面のクチクラ層という部分を発達させることにより、耐寒性・保水性を高めている。葉がこのような冬の寒さに耐える機構を持っているため、冬も葉を落とさずにいられるのだ。
この常緑広葉樹の葉の裏は頑丈なうえ、針葉樹などと比べて体積が大きい。天敵から身を隠すことができ、体温を奪う「風」を避けることもできるため、越冬場所としてベターな場所なのだろう。