「虫たちは手すりや柵が好き」

 虫観察の経験を重ねると、このように感じることが多くある。むしろ、普段から虫観察をしている人の間では、一種の共通認識かもしれない。

 というのも、柵を含む「手すり」はフィールドや時期によって、植物の葉の上や樹皮よりも多く虫を見つけられる場所であり、もはや“主役級の虫観察スポット”といえる。寒くなると昆虫の多くは活動を休止するため、冬は虫を見られる機会が少なくなるが、手すり周辺にならチャンスがあるのだ。

 「なぜ、手すりでは虫が多く見つかるのか?」を、早速解説していこう。

■なぜ、「手すり」なのかを考察してみた

手すりで見つけたヒゲナガサシガメの幼虫

 手すりに虫が集まる明確な理由については、調べても意外と見つからない。そのため、主な理由を僕の観察経験から考察をしてみることにする。

 僕が考える、手すりで虫が見つかる主な理由は以下の通りだ。

 

1:シンプルに虫を見つけやすい

2:手すりや柵についた菌類を食べる虫がいる

3:虫が移動するのに利用している

4:集まった虫を食べる虫がいる

 

 上記の中には、巷で言われている説と重なっているものもあるが、それらも踏まえて僕なりの理由をそれぞれ解説していこう。

■シンプルに虫を見つけやすい

 まず、手すりや柵にいる虫は、植物の上や樹皮などにいるものと比べて見つけやすい。

 手すりや柵の形は凸凹が少なく、単純なデザインであり、隠れられる場所もほとんどない。そのため、そこに虫がいさえすれば、たとえ虫探しが上手でなくても、比較的簡単に虫を見つけることができるのだ。

木の枝に擬態したシャクガの幼虫

 例えば、「シャクガの幼虫(シャクトリムシと呼ばれる、チョウ目シャクガ科に属する蛾の幼虫)」などは、”木の枝”に擬態した姿のものが多い。木の枝でじっと止まっているのを見つけるのは困難だが、手すりの上であれば見つけるのは容易だ。

■手すりや柵についた菌類を食べる虫がいる

 虫の中には、動物食でも植物食でもない、「菌食」という食性を持つものがいる。きのこやカビ類、地衣類(菌類と藻類からなる共生体)などを食べるものたちだ。

 菌食の虫には、例えば「チャタテムシ(チャタテムシ目に属する昆虫)」がいる。チャタテムシには、屋外に生息してカビや地衣類、藻類を食べるものと、屋内に生息する雑食性のもの(こちらもカビなどを好んで食べる)が知られている。

手すりで見つけたチャタテムシの仲間

 手すりで虫探しをしていると、しばしばこのチャタテムシの仲間に出会う。手すりや柵には藻類や地衣類が付着していることがあり、それらを食べているのだと思われる。また、チャタテムシは冬にも活動しているものがおり、冬の手すり観察でも出会いやすい。

 なお、チャタテムシ以外の手すりでよく見られる菌食性の虫には、トビムシの仲間やヨツボシホソバの幼虫などがいる。