■こんな道もあったよ
じつは、以前はこの2ルート以外にも、川根本町から光岳に行けるルートがあった。光岳小屋の前管理人・原田さんは、寸又峡温泉から柴沢吊り橋まで、ガタガタの林道を40kmほど運転し、ボッカや入下山時に使っていたという。現在は、林道が崩落し、車どころか徒歩侵入も厳しい命懸けの廃道になっている。2011年からは使われていない。
柴沢吊り橋から光岳小屋までは、7時間ほどのルートだった。この柴沢吊り橋には、今も「光岳登山口」って書かれた堂々とした看板があるが、もう歩けない。通行できた時も、利用者は営林署や山仕事の方、釣り人くらいだったようだ。しかし、ここがあるから、易老渡も茶臼も、光岳登山口とは呼ばれない。
どこの登山口から行っても、光岳に直接行けるルートはなく、山を越えていかなくてはなりません。「テカリ、どんだけ遠いんだよ〜!」と、思わずつっこみたくなる。
歩く人は少ないけれど、今シーズンは特に池口岳経由でテカリに来る人もいた。甲斐駒ヶ岳や塩見岳から縦走し、池口岳に下山する人など、池口岳の名前をよく聞いた1年だった。池口岳登山口から下りるとバス停があって、飯田駅と遠山郷を結ぶバスが1日数本出てるので、公共交通機関を使えるメリットがあるのだ。
池口岳といえば、登山口近くに住んでいた遠山要さんという方が自ら山に入り、道の手入れしてくれていたという。池口岳山頂から光岳までは、遠山山の会の皆さんが、テープをつけたりしながら何度か歩き、道にしてくれたと聞いた。とはいえ、一般ルートと違い、ルートファインディングが必要で距離も長いです。そのうち、道なき道は波線ルートとなり、現在に至る。
■遠いからこそ、静かで懐が深く、おおらかな山域
雨の日、塩見岳から縦走してきた台湾からのカップルが、食堂で自炊をしながらのんびりとくつろいでいた。外の雨音を聞きながら、ストーブの前で猫のようにぬくぬくと過ごしている。翌日も大雨だったけれど、元気に下山していった。
また別の日、香港から来た22歳の青年は、甲斐駒ヶ岳から縦走してきて、バスで下山すると言う。2組とも、ネットでルートを調べたり、登山アプリを使っているという。日本語のアプリでも、なんとなく漢字でわかるって言うのだから、驚かされる。
香港の青年は「南アルプスにpeacefulを求めてきた。混んでいる山には行きたくないんだ」と言った。静かで懐も深く、おおらかなこの山域が好きで私もここにいる。「そうそうそうだよね!」って同志ができたように嬉しかった。2組とも、良い顔をして帰っていった姿が忘れられない。
どこからスタートしても、光岳までの道のりはとても遠くて、大冒険だろう。でも、苦労した先にはpeacefulな場所が待っています。