「はい!私!」と前のめりで手を挙げ、本当は男性がいいんだよねと言う吉木さんに「なんで男性がいいんですか?」と食いさがった。京都風に言えば、男性がいいと答える時点ではんなりと断っていると思うのだが、奥秩父の山小屋で働いたことがなかったから、是が非でも働かせて欲しいのです。
聞けば、「結構、荷物背負うからね〜」とのこと。「私、背負えますよ」と、鳳凰小屋の歩荷で鍛えられていた私は強気の姿勢を崩さない。最終的には石楠花の咲く1か月、金峰山小屋で働かせてもらった。その年は1月の週末営業でも声をかけてもらい、凍てつく五丈岩を拝んだのだった。
振り返ると、そのご縁でのちに八ヶ岳の黒百合ヒュッテ、米川さんのところで働かせてもらい、そこで出会った百名山の撮影クルーの方が、次の年に撮影歩荷の仕事をくれた。そんなこんなで、繋がった仕事で食い繋いでいた数年間だった。
■みんなそれぞれいい時間の過ごし方をしている
こんな様子だから、両親は結婚もせず、定職にも就かない娘にずいぶん心配したことだろう(今もしていると思うけれど。)私には年子の妹がいるが、「お姉ちゃんいつ再就活するの?」とずばりと言われたこともあったっけ。
自分の身近な人たちに、こんなふうに多岐にわたる仕事の選択をする人たちがいると、人生の時間の使い方は人それぞれだな〜と実感する。それと同時に、私はこのままでいいのだろうか? と不安に思ったりもする。
特に下山間近になると、これからどうしようかと毎年のように思っていた。それで結婚式場や街でのバイトをちょこちょこやっているうちに、雪が解け、山が新緑に染まり、また山のシーズンが始まるのだ。
つい目先のことで頭の中がはち切れそうになるけれど、営業も3年目を終え、先のことを考える余白が少しだけ出てきた。夏の間の4か月を山の上で過ごしている時も、麓で生活しているの時も、時間は同じように流れていて、私には山から下りた生活も待っている。来年も精一杯やっていきたい所存です。