缶詰メーカーの人が、必ずといっていいほど口にするのが「缶詰のおいしさは原料の良し悪しで決まる」というセリフだ。日本だけでなく、海外の人もまったく同じことを言う。

 原料が“良い”というのは、例えば魚なら、なによりもまず新鮮であることを指す。最上等なのは、水揚げされた魚をその日のうちに使うこと。朝、魚市場に並んでいた魚が、最短で昼過ぎには缶詰になるという。

 じつは鮮度は味だけでなく、栄養にも関係する。その好例はサバやイワシ、サンマなどの青背の魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)だ。どちらもオメガ3系脂肪酸というもので、血管を柔らかくして動脈硬化や心臓病のリスクを低減したり、脳の働きをサポートする働きがある。このオメガ3系脂肪酸は脂の一種なので、魚の死後、時間とともに酸化して劣化する。端的にいうと、鮮度が悪い魚は栄養分が減っているわけだ。

■基本はその日のうちに缶詰化

魚体に含まれる脂の量をチェック。画像の魚はサンマ

 実際に、魚の缶詰はどうやって作られるのか? 時系列に沿って見てみよう。

 スタートは早朝の魚市場だ。買い付けの担当者が、市場に並んだ魚のサイズや脂の量(専用の機械で測定)などを比べ、自社の缶詰にもっとも適した魚を競り落とす。量としては、その日に製造する分だけを買うのが基本。冷蔵保存しておき、翌日の製造分に回すケースもあるが、その日のうちに原料を使い切るのが理想だ。

 買い付け担当者に必要な能力は、良い魚を見分ける眼(目利き力)と、市場関係者との良好な関係である。だから魚を買わない時期でも、毎日のように魚市場に顔を出し、漁業者らと情報交換をしていることはよくある。

 なお、冷凍設備を持っている工場の場合は、良質な魚をまとめ買いすることもある。冷凍保管しておけば、水揚げのない時期でも缶詰を製造することができる。