しょっちゅう使うわけじゃないけど、欲しい時にないと困るのがアンチョビであります。魚臭くて塩気が強く、発酵食品と同じ旨味があって、高級品になるほど味がまろやかになる。なかには、まるで生ハムのような風味を持つ高級品も存在する。

 アンチョビには缶入りとびん入りがあって、どちらも製法はまったく同じ。生のカタクチイワシを塩漬けにし、オリーブ油と一緒に容器に詰めて密封してあるのだ。ちなみに密封後の加熱はしていない。大事なことなのでもう一度書くけど、加熱はしていない。つまり、缶詰とびん詰の定義が「密封後に加熱殺菌」であることを考えると、アンチョビは缶詰(びん詰)じゃないことになる。

 普段なにげなく使っていても、中身について意外とわからないことが多いアンチョビ。今回はその謎を解き明かそうと思う。

■アンチョビとは、いわばイワシの漬け物

スペインでは生でもよく食べる

 日本のスーパーだと、アンチョビは大抵パスタやトマト缶の近くに置いてある。つまりイタリア料理の素材として扱われているわけで、実際の用途もパスタソースなどに混ぜこむことがほとんどだと思う。実際にイタリアでも使い方は似ていて、オリーブ油と一緒に加熱してソースにしたり、野菜と一緒にオーブン焼きにしたりする。そのまま使う料理もあるが、火を通す料理のほうが圧倒的に多いはずだ。

 対してスペインでは、アンチョビを生のままダイレクトに味わう料理が多い。とくにバルと呼ばれる居酒屋では、アンチョビをフィレのままバゲットにのせて提供する。あまり塩辛さを感じないのは、缶(びん)に詰める前の塩漬け期間を長く取り、熟成させて塩味をまろやかにしているからだ。

 そう考えると、アンチョビはいわばイワシの漬け物。製造段階で加熱しないのも納得できる。