長野県との県境からほど近い新潟県糸魚川(いといがわ)市の「戸倉山(標高975m)」は、百名山・雨飾山や海谷山塊(うみたにさんかい)などの影に隠れた低山で、比較的短時間で往復できますが、趣き深く、山歩きの魅力がギュッと凝縮しています。
大網峠(おあみとうげ)に続く古道「塩の道」沿いにある白池(しろいけ)、角間池を経由して、秋の彩りを満喫するトレッキングを楽しんできました。
■快適なキャンプ場からスタート! 秋色のトレイルに心も踊る
すっきりと気持ちよく晴れ渡った空、まさに快晴の登山日和でした。ただ少々風が強く、木々の枝先が揺れて、森がざわついています。
今回の歩き出しは「しろ池の森キャンプ場」です。無料で利用できるキャンプ場ですが、広い駐車場にトイレや水場もあって、至れり尽くせりの場所です。短い行程とはいえ、ここで準備をしっかりと整えて出発しました。
森はここ数日の冷え込みで一気に紅葉が進んでいました。緩やかにアップダウンしながら山道は続き、秋色のトレイルにウキウキしながら歩みを進めます。白池までは並行するように舗装された車道(車両進入禁止。早朝や夕方はクマの遭遇を避けるためにこちらの利用を推奨)もあります。
■紅葉鮮やかな森に縁取られた絶景スポット! 「白池」
30分ほどで白池の畔に到着です。ちょうど赤や黄色に色づき出した木々が池を取り囲んでいます。一段上がった「諏訪社の祠」からは、頚城駒ケ岳、鬼ケ面山、鋸岳の海谷山塊を望める絶景スポットです。メルヘンチックな池の雰囲気と、背後にそそり立つ険しい表情の山並みの対比が素晴らしく、さらに紅葉の彩りが絶景を一層印象的にしてくれていました。
道は再び森の中へ。朝は陰影のコントラストが際立ちます。新緑の頃とはまた違った華やぎに心躍らせながらも、どこか切なさも感じる秋の風情です。山道をひと登りにして「角間池」へ。樹間から見る水面は、陽光に照らされた紅葉を映して華やいでいました。ここで大網峠方面へと続く塩の道から離れて戸倉山山頂へと向かいます。
■遮るもののないパノラマ展望台! 戸倉山山頂へ
差し込む秋の光にブナの森が黄金色に染まる中、のんびりと歩いていきました。2日前にまとまって降った雨も乾き出しており、落ち葉のトレイルはカサカサと音を立てて歩を進める足への衝撃を優しく受け止めてくれます。
やがて狭い尾根となり、傾斜が急になっていきます。じわじわと汗ばむような坂道は、このルート一番の頑張りどころでしょう。やがて頭上が開けてくると、もう少しで山頂です。
すでに風も収まり、質素な山頂標識と三角点だけの戸倉山の頂には数組の登山者が日向ぼっこをするようにのんびりと腰を下ろしていました。まるで、そこだけ刈り払われたように視界を遮るもののない展望台です。浮かれた賑わいはなく、落ち着いてそれぞれが噛み締めるように景色を楽しんでいるようでした。海谷山塊や雨飾山、いまだに冠雪していない北アルプス北部の山稜を眺めます。すぐそこには日本海が穏やかな表情をして空に溶け込んでいました。
■登山道だけじゃないので、道選びは慎重に
登りが急だった分、当然下りは慎重に足を運んでいきます。三連休の最終日、絶好の登山日和とあって多くの登山者とすれ違いましたが、前後に近づく登山者の存在に気づくのが早く譲り合いがスムーズでした。マイナーな山に訪れるだけあって、歩き慣れた人が多いのでしょう。
再び「諏訪社の祠」から見下ろす白池は、神秘的なエメラルドグリーンと澄んだ青空を写すコバルトブルーが入り混じり、往路では陰だった畔の森にも光がすっかり届くようになっていました。
昨今、夏場は暑さに辟易することも多いですが、秋の低山歩きは快適そのものです。晴れた日は明るくカラフルな山道ですが、曇りや雨の日も落ち着いた雰囲気が漂っていて乙なものです。白池周辺の標高なら、紅葉の見頃はまだしばらく続きそうです。池を周回する遊歩道もありますので、ブナの森を歩くだけでも気持ちいいです。
帰りは白池を周回する遊歩道を辿りました。遊歩道や古道、作業道など登山道以外のトレイルや踏み跡があります。落ち葉が林床を覆うこの季節は、やや不明瞭なところも増えていきます。とくに下山時は疲労や焦りから違う道に引き込まれやすいので、不安を感じたら地図(地形図やGPS、スマホアプリ)などで確認する心の余裕が大切ですね。
取材日、2024年11月4日の休憩・撮影を含めた所要時間:約2時間50分
登り:しろ池の森の駐車場〜(40分)白池〜(20分)角間池〜(30分)戸倉山山頂(15分滞在)
下り:戸倉山山頂〜(20分)角間池〜(15分)白池〜(30分)しろ池の森の駐車場