■忽然と消えた老婆、その後には!?
違和感しかない。筆者がいた場所は、地図上では周囲1.5km四方に道がないような山奥。木製の乳母車どころか、普通の乳母車でも押して来られるような場所ではない。
老婆は乳母車を押しながらとぼとぼと山道を歩いていた。なんとなく老婆には接触したくない。老婆も雨音で筆者には気付かないだろうから、10mくらい後ろを歩くことにした。
ところがしばらく歩いていると、老婆が目の前から忽然と消えた。目を逸らして見失ったわけではない。パッと姿が消えてしまったのだ。
その瞬間、すぐ近くで5、6人の若い女が大笑いする声が響きわたった。四方からの視線も感じるが、周りを見回しても姿は見えない。そして筆者の驚いた様子を面白がっている話し声が聞こえ、またどっと大笑いする。声の大きさからして目の前にいるような至近距離であるはずだ。それなのに、女たちの姿は見えず、前後左右に隠れられるところもまったくない。天候は土砂降り。人ならざる者に出会ってしまったと確信した。
ここから先に進むべきかどうか少し悩んだ。ただ筆者はからかわれているだけで、危害を加えられているわけではない。そのまま山頂に向かうことにした。しばらく笑い声には付きまとわれたが、無事に登頂。
しかし、同じルートで下山するのはやはり気味が悪い。万一のことがあってはいけないと考え、かなり遠回りにはなったが、一番安全なメインルートで下山した。
件の戦国大名がいた当時、この古道は城と山麓の菩提寺をつなぐ重要な道として機能していたはずだ。ただ大名が滅亡して以来、城は再建されなかったため、この道はいつまで使われていたのかはわからない。
しかしそもそも、いわくつきの寺からいわくつきの城跡までの道である。現在、地図にもなく廃道寸前になってしまったのには、何かしらの理由があるはずだ。そのため、その何かわからないリスクを回避するためにも、こうしたいわくつきの城跡のある山や廃道、廃道寸前の道などは注意する、もしくは行くべきではなかったのかもしれない。現代の登山においても所領が分からず打ち捨てられたような寺院や山城跡に立ち入ったり、地図にない道を進むようなことは避けるべきだ。