■カワセミの意表を突く行動にビックリ!

「うわっ、杭が動いた〜!」
「どうしても、そこに止まりたいんだよなー」。 「言っとくけど、わたしゃ杭じゃないよ」といった会話が、彼らの間で交わされていたかどうかは、わかりません

 静かにしていたカワセミが振り向くと、トンボは、びっくりしたように翅を素早く動かして飛びのきました。トンボの飛行術は非常に巧みで、人間にはとても真似のできない高度な技を繰り広げることができます。

 いったんは、上空に引き下がったものの、どうしてもそのお気に入りスポットに止まりたそうなトンボは、再度チャレンジします。その様子をじっと眺めていたカワセミですが……。

カワセミが、思ってもみなかった行動に出ました!

 次の瞬間、トンボは、カワセミの嘴にはさまれていました。「カワセミがトンボを食べる決定的瞬間だ!」と、筆者は色めき立ちました。カワセミは、普段なら、捕らえた小魚を弱らせるために、獲物を杭や枝に打ち付ける行動をします。しかし、今回に限っては、何もしません。しかも、よく見てみると、嘴ではさみ込んでいるのは、トンボの胴体ではなく脚なのです。トンボもあっけにとられたのか、翅をばたつかせることもなく、ただただ「まな板の鯉状態」でおとなしくしているだけです。この後、どうなる? 緊張する時間が流れます。しかし、数秒後、カワセミは静かにくちばしを緩めてトンボを放しました。

 自分の頭に止まろうとするトンボに少しイラついて捕まえたものの、食べるつもりはなかったので、喝! を入れて「お仕置き」をして、今後同じことを繰り返さないよう戒めたのでしょうか。自然界は、弱肉強食の世界ではあるものの、むやみに殺生することはないと聞いたことがあります。今回も、トンボにお灸をすえただけの行動だったのかもしれません。

ひと騒動があったにもかかわらず、何事もなかったかのように飛び去るカワセミ
別の個体がやって来て、自慢の羽を入念にお手入れしていました

 しばらくすると、カワセミは他の杭を目指して飛んでいきました。すると、別のカワセミがすぐにやって来て、ていねいに羽づくろいを始めました。

 それにしても、あのトンボとカワセミには、どのような会話が交わされていたのでしょうか。トンボは、その後、「今日は、危なかったなあ。でも、カワセミのやつ、俺の止まり木にやって来て居座るとは何事だ! 」と言っていたかもしれませんし、カワセミは、「あのトンボ、私の頭に止まろうとするなんて全くもって無礼な奴だ」と憤慨しているかもしれません。

 杭を巡る生き物たちの本当の会話はわかりませんが、彼らの頭の中を勝手に想像しながら、梅雨のひと時を過ごすのは楽しい時間でした。