■ 唯一残された戦前開業のローカル線
冒頭からの私事で恐縮だが、筆者の生誕地は和歌山県だ。場所は海草郡野上町(現紀美野町)。病院ではない。母の実家で助産婦さんが取りあげてくれた。
その野上町には、かつて「野上電鉄」という私鉄路線が通じていた。路線距離は、海南市の日方駅から野上町の登山口駅までの11.4kmである。また、有田市にも「有田鉄道」という5.6km(最長時9.1km)のローカル線が走っていたが、野上電鉄は1994年、有田鉄道は2003年に廃止となっている。
現在、和歌山県内に残る大手鉄道会社の支線でないローカル線は、和歌山電鐵の貴志川線と前回から紹介している紀州鉄道のみ。貴志川線は元南海貴志川線なので、開業当初からの単独ローカル線として、紀州鉄道(1931年開業)は県内唯一の存在なのだ。
■にぎやかさの増す紀伊御坊駅から市役所前駅
紀州鉄道は電化されておらず、車両はすべてディーゼル車だ。単線の線路を一両編成のワンマンカーがトコトコ走る。そんな紀州鉄道の線路沿いを歩き、紀伊御坊駅まで来た。駅の近くにはかつての車両が置かれ、建築設計事務所のオフィスとして利用されている。
また、紀伊御坊駅は鉄道部事務所が置かれた路線唯一の有人駅であり、車庫もある。車庫の横には路線路を挟んで、いまは休車中の車両が置かれていた。
御坊駅から学門駅までは田園風景が見られたが、学門駅付近から紀伊御坊駅に到着すると街並みは変わる。住宅が立ち並び、商店街もあり、近くにある国道42号線沿いには大手チェーンの店舗が連なる。人通りや自動車の通行量も増え、2万人レベルの都市だという印象は受けない。郊外のベッドタウンという様相である。
紀伊御坊駅の次は市役所前駅で、その名のとおり御坊市役所が近くにあり、そのほかにも税務署や地方検察庁などがある官庁街となる。相変わらず人と自動車の数は多い。