■神戸のはじまりである大輪田泊 

 いまでこそ、神戸の中心は三宮というイメージが強い。だが歴史をさかのぼれば、奈良時代に整備されて平安時代末期に平清盛が修築した大輪田泊が神戸のはじまりであり、大輪田泊は鎌倉時代に改修されて兵庫津と呼ばれるようになる。その後、幕末になって兵庫津に隣接する神戸港が開港され、三宮が繁華街になるのは戦後になってからである。

 このように、神戸の先駆けとなった兵庫津であるが、現在の場所にあたるのが和田岬。「和田」は「輪田」に由来するとされる。そして、JRの兵庫駅から和田岬駅までをつなぐのが山陽本線の支線である通称、和田岬線だ。

和田岬駅に停車中の和田岬線車両

■通勤に特化したダイヤ編成

 和田岬線の駅は兵庫と和田岬の2つだけで、路線距離は2.7km。この路線の最大の特徴は運行ダイヤにある。平日の兵庫駅始発は6時45分。その後は7時台に3本、8時台に2本、9時台に1本となっているが、その次は16時40分まで運行はない。終電は21時55分。逆もまた然りで、和田岬発の始発は6時53分で9時25分発から16時49分発まで電車はストップ。終電は22時4分である。

和田岬駅から兵庫駅行きの時刻表

 これが土曜日となると、兵庫発は午前中が7時3分から8時46分の6本、午後は17時15分から20時5分の6本。日祝日は、上り下りとも7時台に1本、17時台に1本だけしか運行されない。つまり、和田岬線は通勤専用路線といえる。しかも、兵庫駅の和田岬線専用ホームには、立ち入ることすら規制されているのだ。

兵庫駅和田岬線ホームへの入場規制貼り紙
シャットアウト状態の和田岬線専用改札口

 そもそも和田岬線は、1890年に貨物専用路線として開業した。旅客運行が始まったのは1911年。翌年には鐘紡前駅も開設され、沿線界隈に立地する工場などへの通勤の足として利用されたのだ。

■大正時代のモダン建築と最古の鉄道可動橋

 今回の取材は日曜日。早朝の始発はあきらめ、17時26分和田岬駅発に乗る予定で兵庫駅から沿線を歩いてみた。

踏切から撮影した阪神高速の下を走る和田岬線の線路

 兵庫駅から路線に沿って阪神高速を越えると、そこには工場や配送センターが立ち並んでいて、休日ということもあり人の姿はほとんど見られない。平日なら勤務している人や物資を搬入するトラックが多く、工場の機械音も響いているのだろうが森閑としている。

 そんな雰囲気の中をしばらく歩いていると、まっ白なレトロビルが目に飛び込んできた。

デンソーテンの社屋

 カーオーディオやカーナビゲーションの大手メーカーで、和田岬に本社を置くデンソーテンの社屋だ。1920年に同社の前身である川西機械製作所時代に建てられたものだという。

 さらに歩くと神戸運河に到達。和田岬線は和田旋回橋をわたって運河を横断する。和田旋回橋は、その名のとおり旋回が可能な橋のこと。運河を船が通行する際、運航の妨げにならないよう橋が回転していたのだ。

 和田旋回橋は日本で最古の鉄道可動橋で、2021年に土木学会選奨土木遺産に認定されてもいるが、現在は回転機構がすべて撤去された固定橋となっている。

 

つづく