■ガスに焦らされた末…… 待ち望んだご褒美!

 夜も天候は回復せず、むしろ風はますます強まって、流れる霧とともに窓をがたがたと揺らしています。小屋に隣接するテント場で眠る人たちが心配になるほどでした。当然ながら、楽しみにしていた星空は次回までお預け。

 翌朝。安曇野の街越しに見えるはずのご来光も雲のへヴェールの向こう側でしたが、下山開始直前になって穂高の峰々を覆っていた雲が突然消え、待ち望んでいた光景が目の前に広がりました! あちこちから短い歓声が聞こえてきます。当然出発はしばし延期され、観賞会&撮影会が始まりました。

 西穂高岳から続く稜線を目で追うと、前穂高岳、奥穂高岳、そして涸沢カール、北穂高岳……と続き、誰もが憧れずにはいられない槍の穂先がツンと天を指すように姿を見せていました。苦しい思いをして登ってきた登山者へのご褒美のような風景をしばし堪能。

涸沢もくっきり。次はあちらから蝶ヶ岳を眺めたい

 感動の景色を目に焼き付けて、日の光を受けながら下山を開始。すると、また新たなご褒美が。登山道の先を先導するように、ライチョウの親子が歩いていました。こちらを意識することなく植物をついばみながら動き回るライチョウに、再び足を止めて撮影会が始まってしまいました。なかなか下山が進みません。

 稜線から森に入ってしばらく歩くと、長く急な下りが延々と続きます。当然前日の登りの疲労も残っていて足取りはやや重く、ちょっとした段差でも脚に体重が乗って負荷が増してきます。荷物の軽量化を図ったためとはいえトレッキングポールを持ってこなかったことを少し後悔。雨の影響が残る登山道で滑らないように気をつけねばと気を引き締めます。

 長い森歩きの末に、樹々の間から徳澤園の屋根が垣間見えると、いけないと思いつつもついつい歩みは大股に、急ぎ足になってしまいました。下山開始からおよそ3時間半、森を抜けてようやく徳沢登山口に無事帰還! 当然のように徳澤園のソフトクリームで無事の下山を祝う“カンパイ”です。

 但し、本当のゴールはもう少し先。デポしていたテントと荷物をザックに詰め込んで背負うと、先ほどまでの軽量ザックに慣れたカラダにはけっこうな負担です。長塀尾根で出会った、テントや食料を担いで歩いていた人達の体力に尊敬の念を抱かずにはいられません。

 徳沢から明神、河童橋へとおよそ2時間弱の歩きを経て、今回の本当のゴールである上高地バスターミナルに到着しました。

凛々しい母ライチョウ。4羽ほどの子ライチョウを見守っていました

■体力やスキルを考えて無理なく楽しめるコース・日程を

 今回はキツいコースを少しでも負担を減らして歩くために、
・日帰りでも歩けるコースをあえて1泊
・必要最低限の荷物以外は登山口にデポ
・装備や食糧を減らすために山小屋を積極的に活用
という対策を選びました。もちろん重い荷物を背負ってガシガシと登れる体力をつけることも重要ですが、登山初心者や子どもと一緒に登る山行の際にもこのような対策は有効ではないでしょうか。無理なく歩ける計画は、登山の安全にもつながります。

 体力と時間に余裕をもった計画で、笑顔で楽しむ登山を、ぜひ!

上高地公式:https://www.kamikochi.or.jp
徳澤園:https://www.tokusawaen.com
蝶ヶ岳ヒュッテ:https://chougatake.com/