北アルプス南部の名峰が連なる槍穂高連峰。梓川を隔てて向かい合う蝶ヶ岳は、まさに大展望の特等席です。上高地の観光も兼ね、なるべく負担を減らす方法で登ってみました(それでも大変でしたが)。
■初日はゆっくりめに上高地入りして観光も
北アルプス南部の玄関口といえば、やはり上高地でしょう。登山者の多くは早朝にバスターミナルに到着し、大型のザックを背負って朝もやの中をずんずん歩き進めていきますが、今回のプランは、当日の朝に都心から電車に乗り、松本駅経由でバスを乗り継いで上高地に入ります。
お昼を過ぎた頃に上高地バスターミナルに到着し、その先の河童橋まで行くと、登山者よりも一般観光客のほうがはるかに多い印象。
いつもなら記念写真を撮影したら足早に通過してしまいがちですが、初日は歩行タイム2時間なので、観光客同様に上高地を楽しみましょう。河童橋周辺でスイーツを食べたり、バスの時間に追われてなかなか見られない上高地ビジターセンターを訪れたりするのもおすすめ。少し歩を進めてから神秘的な明神池、嘉門次小屋の絶品イワナを味わうのも捨てがたいですね(むしろイワナ塩焼はマストアイテム!)。
上高地からのんびり1時間。明神を過ぎると途端に観光客は減り、登山者の世界に足を踏み入れた感覚に。初日の目的地は徳沢なので、さらに1時間程度、梓川沿いを歩きます。
この時間に歩いていると、続々と下山して上高地に向かう人たちとすれ違います。その表情には、疲れていてもどこか充実した満足感が浮かんでいて、登山の喜びを少しお裾分けしてもらったようで嬉しくなってしまいます。
道が川岸を離れ、やがて徳沢に到着。かつては牧場だったという、芝生の快適なテント場で初日はテント泊です。
徳澤園でテント泊の受付を済ませ、できるだけ快適そうな場所を選んでテントを張ります。当然ながらテントサイトは快適な場所から埋まっていきますので、混みあう時期は少し早めの到着を心がけたいところ。
テントを設営し終えたら、後はくつろぐだけ。“氷壁の宿”として有名な徳澤園はカフェスペースも充実していて、常に登山者を満足させてくれるメニューばかりです。名物のソフトクリームを食べたり、お昼寝したり、思い思いの時間を過ごせます。お隣の徳沢ロッヂの外来入浴に行って汗を流すこともできます。
日が暮れる前にテントサイトでドライフードの夕食をとったら、明日に備えて早めにシュラフに潜り込みます。
■不要な装備は麓にデポして山小屋活用
翌朝は空が白み始めた頃に起床し、今日のハードな歩きに備えてしっかりめに朝食を食べます。まだ薄暗くひんやりした空気が流れるなか、早朝のバスで到着した登山者が黙々と徳沢を通過していきます。
2日目は徳澤園の裏手にある登山口から長塀(ながかべ)尾根を上り、蝶ケ岳に向かうコースを歩きます。コースタイム4時間40分の長丁場。今回なるべく負担を減らして無理なく登れるプランを考え、蝶ケ岳では小屋泊とし、テントと余分な荷物は徳沢にデポ(留置)して、背負う荷物を出来るだけ減らすようにしました。(テントを張ったままにするには空天代が必要)
必要最低限の荷物と十分な飲料水を背負い、いざスタート。
長塀ルートは登山開始直後から急登が続く、かなりハードなルートです。おまけにコースのほとんどが樹林帯の中を歩くため眺望を拝むこともできず、“心が折れる”コースといえます。荷物を軽くしているとはいえ、がしがしと高度を上げていくと息は上がり、汗が噴き出してきます。唯一ありがたいのは、この日の天気はあいにくの小雨でしたが、樹林帯に守られて雨風が遮られること。
それでもこまめに休憩をとりつつひたすら登り続け、長塀山頂(眺望なし)を越え、やがて森の中に池が点在する平坦な道を更に進むと……ようやく稜線に出ました!
残念なことにこの日は小雨とガスに阻まれて、稜線の向こうに見えるはずの絶景はなく、ただただ真っ白(涙)。おまけに稜線に出た途端、遮られることのない強風に吹きつけられ続けます。しかしここまで来れば山小屋はもう目と鼻の先。風に立ち向かいながら歩けば、小屋の赤い屋根が目に入ってきました。
激しい風を避けて屋内に入ると、夏にも関わらずストーブに火が入っていました。山小屋のありがたみを心底実感する瞬間です。
荷物を極力軽くして登る計画だったので、小屋泊は夕食付きで予約済み。蝶ケ岳ヒュッテの料理はシンプルなメニューの中にもこだわりが光ります。特に味噌汁に使われている味噌は、麓で栽培された大豆や米を使い、スタッフが仕込んでいる手作り味噌とのことで、食欲をそそる香りについついおかわりしてしまいます。