スキーに必要な板、ブーツ、ビンディング、ウエアなどの様々な専用ギアについて、今さら聞けない基本の「キ」を連載でお届けしていきます。第5回は「スキーウエア」について。素材や構造の基本を理解したら、体の動きも変わってくるかも知れないですね。
■1. スキーウエアに求められる機能
「単なる防寒着にとどまらない」それこそがスキーウエアの奥深さであり、難しさと言えます。冷えを遮るだけのウエアなら、中綿をおごってやれば話はおしまいかも知れませんが、スキーはアクティビティです。身体を動かすことで体温が上昇し、時には汗をかくこともあるでしょう。
気象条件や気温だけでなく、滑り手の体調までもがダイナミックに左右されるスキー。アクティビティである以上は、ウエアは動きを妨げることがあってはならないなど、スキーウエアが満たさなくてはならない条件は多岐に渡ります。それらすべてを上手くカバーして、あちらを立てつつこちらも立てるという絶妙のバランスの上に成り立っているのです。
■2. ウエアのパーツ
フード:
雨や雪、風を遮ることで保温の効果を発揮。状況によって保温性を調節できるという機構です。最近ではヘルメットを被っても使用できる大容量のものも登場しています。
ベンチレーション:
ウエア内に外気を取り入れる窓の役目を果たします。熱気がたまりやすい脇の下に設けられる事が多く、腕の陰になっているので雪や雨が当たりにくいという理由もあります。
ポケット:
スタンダードな使い分けとしては、ウエスト位置にあるポケットは手を温めるため、胸ポケットは小物をしまうためにあります。小物をしまうポケットのファスナーは仮に完全に閉めていなくても中のものが落ちないように、上から下に向けて開くものが多く存在します。
カフ:
滑走時に窮屈にならないよう、やや長めに設定されています。グローブの上に袖口をかぶせることができるよう、カフは太めになっていることが多く、さまざまなグローブに柔軟に対応。
フロントファスナー:
正面からの風や雪をブロックする頑丈さと、身体の動きに追従するしなやかさを備えており、軽く錆びない樹脂製が主流です。体温調整のためにウエアを脱ぎ着することを考えると、フルファスナーが使いやすいかも知れません。
ウエスト:
転倒の際に雪が入りにくいように、そしてお腹や腰が冷えないように、ハイウエストになっているものが多い。またウエストサイズは面ファスナーなどで調整可能となっており、ベルトがなくてもフィット感を損なわない仕様になっています。
サイドファスナー:
パンツのサイドにはベンチレーションとして、大きなファスナーが付けられていることがあります。多くは太ももの外側にセットされていますが、内側にあるもの、あるいは内外の両側にある製品も存在します。
エッジガード:
裾の内側はケブラーなどの丈夫な素材でガードされています。これはスキー板のインエッジが当たることで切れてしまうことがないための設計。丈夫であってもしなやかさを損なわないよう工夫されており、足さばきに影響を与えません。
■3. 生地は多層構造になっている
表地と裏地でメンブレンをはさんでいるのが3レイヤー(下のイラスト参照)と呼ばれ、裏地無しで表地とメンブレンだけで構成されているのが2レイヤーです。3レイヤーは、裏地によってメンブレンを保護できるために耐久性を向上させることができるほか、裏地によって滑りが良くなることで快適な着心地を実現します。2レイヤーは、裏地がないぶん透湿性が高くなり、製品の重量を抑えることができるほか、しなやかな着心地を叶えることが可能です。
●表地の役割
雪や雨を弾き、頑強さを保持するウエアの骨格とも言える部分。素材は化学繊維がほとんどで、ナイロン系の素材が多用されます。ナイロンの摩擦に強く、弾力があってしなやかという特性がスキーウエアにぴったりなのです。
●裏地の役割
汗を吸収することで快適性や着心地を向上させている他、ウエアの中に着ているミッドレイヤーなどとの滑りをよくして動きやすさを確保しています。また保温性を備えた素材を使うことで防寒性を高めている製品もあります。
●防水透湿膜を採用
現代のウエアはほとんどが表地と裏地との間にメンブレンと呼ばれる膜を挟み込んでいます。このメンブレンは、防水性とともに湿気を通過させる透湿性を発揮するウエアの根幹ともいえる部分になります。メンブレンにはいくつか種類があり、後ほどそれらを説明します。
●保温性を高める中綿
なかには中綿を封入して保温性を高める製品もあります。ほとんどは雪や汗に備えて、湿気に強い化学繊維の中綿が使用されます。またウエアによっては風を受けて冷えやすい身体の前側に重点的に中綿を入れるなど、体温の分布に応じて保温性を調整するものもあります。
●ストレッチ性について
動きやすくするために生地にストレッチ性を持たせたものがあります。ストレッチさせるためには生地を構成している糸そのものに伸縮性を与えるか、織り方によって生地自体が伸びるようにするかのどちらかとなります。いずれにしてもメンブレンを組み合わせるなら、メンブレンそのものにもストレッチ性が必要になるため、防水透湿性を備えたウエアがストレッチするということは、実は非常に高い技術を要することなのです。
●デニールとは
ウエアにはゴワゴワした固い着心地のものもあれば、軽やかなものもありますが、その差は表地の生地の厚みや、裏地の素材の違いによるものが多いです。カタログに表示されている数字のあとのDという表記は、デニールという単位の略号になりデニールは生地に使われている9000メートルあたりの糸の重さをグラム単位で表したものになります。カタログでは、これが間接的に生地の厚みを表していますが着心地などはデニール数だけで判断できるものではないことも覚えておきましょう。