ミネラルウォーターと同等の水質を誇り、流域の町は日本でもっとも自殺率が低いといわれる“幸福の川”こと「海部川」。その美しさと流域に住む人々の気質に惚れ込み、12年ぶりに再訪を果たしたのは2017年の5月のことだった。

 海部川の川下りは区間が短く、水量も乏しく、堰越えがあったりするが、それを補ってあまりある水質の良さを楽しめる。当時の旅の記録とともに、その世界でとことん癒されるための方法もご紹介していく。

■海部川再訪

 長時間車を走らせ、海部川と久しぶりの邂逅を果たす。

 合併して海部町から海陽町になった今も、川も町も面影は当時のままだった。目に入る景色と当時の記憶がブレンドしていく感じが心地よく、ワクワクよりもどこか心は穏やかだ。

まさに流れるミネラルウォーター

 この川は他のグリーンっぽい清流とは違い、ブルーがかった透明度の高いクリアウォーターだ。伏流水の川独特の色味だが、特筆すべきなのは、この状態が河口付近でも見られるということ。

 日本中を旅したが、そんな川を他に見たことがない。

 12年前と同じ川原から川下りをスタートする。当時この川原で、買ったばかりのマップケースを野犬に食いちぎられたり、鹿の白骨死体に遭遇したりと随分ワイルドな体験をしたが、今回は穏やかなものだった。

 この川の渓相は比較的穏やかで、基本的には川に沿って道が走っているため安心感がある。小さな集落もぽつりぽつりとあるため、上陸しては地域の神社などを訪れたりして、のんびりと旅をした。

穏やかな渓相。全体的に水量は少ない

 相変わらず浅い区間は「水がないんじゃないか?」と思うくらい透明で、深い場所はどこまでも青く清冽で、思わず「そうそう! これこれ!」とニヤけてしまう。

 2mほど下の川底には自分の影がくっきりと映り込み、まさに浮遊しているかのような錯覚を巻き起こす。

この浮遊感は体験したものにしかわからない

 この川は下れる距離が短め(僕の時は約8km)な分、じっくりと清流を愛で、周辺を探索し、川原でのんびりと過ごすのがいい。アドバイスは、「のんびりいこうぜ」の一言だけである。

 まあでも一応付け足すとするなら、基本的に水量が乏しいので、川下り後半はそこそこ歩く羽目にはなる。瀬の場所はほぼ浅瀬なので、隠れ岩の早期発見と水深のある本流を見定める力は必要だ。ある意味、ここは喫水が浅くて回転性の優れるパックラフト向きの川ともいえる。テトラポットもいくつか点在していたから、そこには絶対近づかないようにしよう。