登山に必要な一切を背負って登り、山の息吹を感じながら過ごすのがテント泊登山だ。厳しい環境ならではの迫力ある景色の中で、地面に張ったテントから伝わる山との一体感。一度経験すると病みつきになる魅力がある。
その分、せっかくテントを張ったら、あまり移動せずにのんびりと眺めを楽しみたい。面倒くさがり屋の僕はそう思ってしまう。できれば山の見映えもよく、自慢のテントも写真映えするようなロケーションを求めて・・・ そんなわがままな要望を叶えてくれる、燕山荘のテン場を紹介したい。
■テン場のロケーションが贅沢すぎる!
テン場は稜線にあり、まさに雲上の世界にテントを張ることができる。燕山荘に面したサイトは燕山荘から一段下がったロケーション。この距離感が絶妙で、小屋の前から燕岳とテン場を同時に写真に撮ることができる”映える”スポットだ。他にもテン場と小屋、その周辺を散策するだけで写真映えするアングルがいくつも見つかるだろう。燕岳の稜線一帯は花崗岩が露出している部分が多い。このおかげで光の変化との相性がよく、赤く染まりやすい。「モルゲンロート、アーベントロート」(※1)など、写真映えする光景にきっと出会えるだろう。
燕岳側のサイトは常に山頂を眺めながら過ごせる。山小屋や登山者の賑わいが視界に入りにくいので、静かに山の時間を過ごしたい人にはオススメだ。眺望を独り占めしているようなプライベート感がある。
いずれにせよ、テン場全体は稜線から東側にわずかに下がっていて、多少の西風から守ってくれるのがありがたい。山の天気はいいときばかりではない。むしろ荒れることの方が多い気がする。高山の稜線上はリスクも多いので、少しでも安全、快適に過ごせる場所は重要だ。
※1 ドイツ語由来の山用語。モルゲン=朝、ロート=赤。山が朝日で赤く染まる状態。夕日で染まるのがアーベントロート。
■まるで展望台! 槍ヶ岳や富士山の眺めも抜群だ
テン場から東側の眺望は開けている。燕山荘に面しているサイトなら、テントに居ながらにして八ヶ岳、南アルプス、奥には富士山まで眺めることができる。山の朝夕は夏でも肌寒い。一度テントに入って温もりを覚えると、外に出るのが億劫になってしまうもの。朝、夕のマジックアワーや夜中の星空。いい場所にテントを張ることができれば、楽してベストショットを撮ることが可能だ。30秒も歩けば360度の展望が開ける。北鎌尾根から天に突き上がる槍ヶ岳の姿もそこにある。
■急登だが整備された登山道は快適。短めのアプローチでお得感あり!
中房温泉の登山口から約4時間ほどで燕山荘のテン場にたどり着く。これは北アルプス稜線上のテン場の中では短いと言える。「合戦尾根」は「北アルプス三大急登」(※2)に数えられているが、それほど恐れる必要はない。たしかにひたすら登りが続き、体力勝負な部分はあるが、人気の燕山荘や「表銀座ルート」(※3)の玄関口だけに登山者も多く、整備が行き届いていて歩きやすい。水場やベンチ、さらに「合戦小屋」には名物、波田のスイカ(夏の収穫時期)もあって補給できる。快適な登山道だ。お洒落な造りの「燕山荘」では生ビールも買えるので、頑張った自分へのご褒美にぜひ!
※2 北アルプスの登山道の中で急な傾斜が続く登山ルートとして知られる3ルート。残りは「ブナ立尾根(烏帽子岳)」と「早月尾根(剱岳)」 他に「日本三大急登」もある。
※3 燕岳から常念山脈を大天井岳へ。西岳から水俣乗越、東鎌尾根を経て槍ヶ岳へと縦走するルート。他に「裏銀座ルート」もある。
■燕岳の山頂へ。立ち並ぶ花崗岩の巨石たち、何に見えるかは想像力次第!?
テン場から燕岳往復は約1時間だ。花崗岩の露岩して白く輝く様子は、遠くから見ると冠雪してると勘違いしてしまいそう。「イルカ岩」「メガネ岩」など、巨石のオブジェはイメージ力が試される? 長い年月をかけて自然が作り出した造形美だ。何箇所かコマクサの群落があり、時期が合えば可憐な花を見ることができる。さらに周辺にはライチョウも生息しているので、運が良ければ出会えるかも。