まとまった降雪、翌日の晴れ間、そこには最高のパウダー滑走が待っていた!
■フルラッセルにうれしい悲鳴
数日間続いたストームの後、予報どおり朝から見事に晴れ渡り、青空の下で白馬の峰々は白く輝いていた。麓のコンビニで集合した僕らは、お互いの情報を持ち寄り、協議の末に遠見尾根へと行き先を決めた。入山は「エイブル白馬五竜スキー場」から。ゆっくりめにスタートしたつもりだったが、入山ゲートの先は傷ひとつないノートラック(※1)だった。一番乗りは嬉しいが、おかげでフルラッセル(※2)が決定してしまった。
「見返り坂」は最初の関門だ。積雪量はかなり多くてスキーを履いていてもかなり埋まる。先頭を交代しながら尾根に乗り上げてひと息つく。見晴らしが一段と良くなった。長大な遠見尾根。アップダウンを繰り返しながら延びていく雪稜は、小遠見山で向きを変え、白岳を経て五竜岳へと続いている。「武田菱(※3)」が明瞭なコントラストで美しい。
仲間たち(実は全員スキーガイド)は、足を止めては気になる箇所の積雪の状態をチェックしている。気になる層もなく、程よく圧力がかかった雪同士は、極めて安定して結合しているようだ。北斜面の雪質はもはや約束されたようなもの。期待が高まる。
※1 雪の上に歩いた跡や滑った跡(トラック)がないこと
※2 新雪で足が深く沈む状態で雪をかき分けて進むこと
※3 北アルプス、後立山連峰の五竜岳の東面に出る雪形。戦国時代の武田家の家紋に似ていることから名付けられた
■「二ノ背髪」から北斜面を滑る
尾根上は途中からガスに覆われていたが、「二ノ背髪」に着く頃にはふたたび視界がクリアになっていた。滑走する北斜面の状態をチェックして、さらにスキーカット(※4)して様子を見るが、問題なさそうだ。もちろん絶対に安全な訳ではないが、リスクの少ない斜面から順番に滑走を開始した。
尾根のそばですら、ほぼ底付きしないパウダースノーだ。滑る斜面の向こうには、完璧な青空に白馬の峰々のパノラマが広がっている。文句のつけようのないコンディションだった。
ある程度滑った後、いったん森の中をたどって尾根まで登り返した。その頃には、僕らの後から登ってきたバックカントリースキーヤーやスノーボーダー、登山のパーティーも追いついてきていた。
※4 積雪の安定度を確認するために、スキーで雪面を横切ってプレッシャーをかけること
■極上のパウダーをロングラン!
高標高は安定度が低いようで、対面に見える八方尾根やさらに奥の小蓮華山の斜面にも上部には破断面が見られた。僕らは尾根上を下り、「一ノ背髪」まで戻ってから平川を目指し滑走を開始した。
高度を下げるほど雪は良くなる。スキーは吸い込まれるように走り、ストレスをまったく感じない。良質なパウダー特有の浮遊感を存分に味わいながら落ちていく。かなりの急斜面でも雪がズレる様子はなく、スラフ(※5)も出ない。思わず声が出てしまうほどの極上のパウダーはひたすら続いていった。今シーズン一二を争うであろう、The DAY(※6)になったのは言うまでもない。
※5 点発生表層雪崩。乾雪の急斜面において滑走する場合は発生しやすい
※6 英語で「最高の日」を意味する。雪質、天気、さらに同行メンバーとの相性まで含み、その日の滑走が最高だったときにバックカントリー愛好家が使う表現