毎年2月16日は、長野県の多くの河川で渓流釣りが解禁になる。解禁当日の人気の河川では、エサ釣り師、ルアーマン、フライフィッシャー、 思い思いのタックルを手にした釣り人たちが川に立ち並ぶ。

 僕は仕事との折り合いがつかず、解禁当日は行けなかったが、一週間ほどしてようやく竿を出すことができた。

■野生のビックトラウトを求めて! 釣り人が集う天竜川

天竜川本流、小黒川合流点

 場所は天竜川。諏訪湖に端を発し、数多の支流と合流しつつ、長野県の南部から静岡県を抜けて太平洋に注ぐ長大な川だ。今回はそのうちの天竜川漁協の管轄するエリアを選んだ。 このエリアの特徴として、本流は漁協による放流事業が行われていない。そのため魚影はそれほど濃くないが、自然繁殖を繰り返した、立派なレインボートラウト(ニジマス) や大物のイワナが釣れる可能性が高いことが最大の魅力だ。腕に覚えがある釣り人にとって、いい型のトラウトと出会えるチャンスがある、挑戦しがいのあるエリアとなっている。

 実は解禁当初から釣り仲間たちから、立て続けに釣果を自慢する声が届いていて、内心穏やかではいられなかった。 前日にも知人が、いかつい顔の立派なレインボートラウトの写真をSNSにアップしていたし、別の釣り人が釣り上げた50cmの大イワナの話を聞いて、正直かなり羨ましかった。

 さて、当日の朝は気温は4.7℃。水温は5.7℃で、 雪と雨が交互にちらつく、なかなか厳しいコンディションとなった。 そのせいか、車で移動しながら見かけた釣り人はごくわずか。期待と緊張でドキドキしながら、本流用フライフィッシングの道具を準備し、河原に降りて釣りを開始した。最初に入ったポイントはまったく何の手応えもなく、 キャスティングとドリフトの練習をしたようなものだったが、 久々のフライフィッシングだったので、楽しいひとときだった。

 気を取り直して次のポイントへ移動を開始した。車中から川の様子を観察していると、妙に魚の気配のある場所を発見。予定にはなかったが、竿を出してみることに・・・

■ついにヒット! 完璧なプロポーションのレインボー

精悍な顔つき、ピンと張ったヒレ。天竜川のレインボートラウト

 支流の合流点の少し上流から釣り下っていく。いよいよ合流箇所の核心部に、しっかりと沈めたフライ(毛バリ)が入り、ゆっくりと通過していく。重い水の塊がそのまま移動していくような、押しの強い流れ。じんわりとスイングが終わり、ひと呼吸置いてリトリーブした瞬間、重い手応え。
「ん、根がかり?」
ググン。鈍いが確かな魚の反応を感じた!
慎重に合わせ、針先が確実に魚の口にかかった。
「ここからが勝負だ!」
そこまで大物ではない感じだが、元気よくダッシュを繰り返す。その度にロッドが絞り込まれる。 そのまま流心に走りこまれ、リールが逆転してけたたましく鳴いている。

 貴重な解禁フィッシュなので、何としてもキャッチしたい。
「ひょっとしたらイワナ?」
一向に弱る気配もなく、なかなか手元に寄せることができない。なんとか流れの弱い浅瀬に誘導してようやく正体がわかった。
レインボートラウト(ニジマス)だ。
さらに2度、3度とラインを出されつつも、 ようやくネットイン! 少々お粗末なやり取りだったが、 無事にキャッチすることができた。

丸々と肥えた、重量感あふれるレインボートラウト

 サイズこそ40cmそこそこで大物とは言いがたいが、厚みのある砲弾型のボディーがメタリックシルバーに輝き、まばゆいばかり。ピンと張ったヒレや、ほんのりとピンクがかった色艶が、健康な天然魚の素性を物語っていた。いい魚を無事に手にできた嬉しさと安堵感に酔うひととき。しばしの間、満ち足りた気分を噛みしめる。

 その後、再び移動して3箇所のポイントを回ったが、 寒い北風にさらされただけで、アタリすらなく終了した。釣果として、この日は一本だけだったが、 天竜川のポテンシャルを感じるレインボートラウトが釣れ、個人的には充分満足できた。 スタートとしては上出来か。次回以降に期待が募る。