ウェア作りの根幹はクライマーが欲するもの

食事も服も岩登りの道具も、必要なものはなんでも自分たちで作った

—若い頃からご自身でウェアやギアを作っていたそうですが、きっかけは?

 高校生まではビーチタウンに住んでいたので、手に入らないクライミングギアを自作していたことが始まりです。ミリタリーパンツは丈夫でしたが、ご想像の通り、クライミングにはちょっと硬くて動きづらいものでした。私たちにとって、クライミングパンツとは一日中履き続けるものでした。岩に登るときも、買い物に出るにも、夜のお出かけも同じ服。当時、すでにテクニカルなウェアはありましたが、それを着てパーティーに行こうとは思えない代物でした。そこで、動きやすくて、パーティーに着ていってもかっこいいパンツを作ろうと思ったのが理由です。

—初めはどのようなウェアを作っていたのですか。

 当初は2つのプロダクトだけを作っていました。白いパンツと黒いパンツです。暑い日でも涼しい白は夏用モデル。反対に寒い日でも日光を集める黒が冬用モデルでした。そして、「フリーダムムーブメント」をテーマに据えて、股下にガゼットと呼ばれる別パーツを設けることが私たちのアイデアでした。機能的な色に機能的な形。まさに、「必要こそが発明の母」ですね。

現在では当たり前に使われているクライミングギアの中にも、マイクのアイデアが盛り込まれたギアは少なくない

—クライミング用のパンツ以外にも、マイクさんが考案した道具はありましたか?

 テントも作ったし、ポータレッジも自作していました。12歳でピトンやナッツ、ギアバッグを作り始めてから、ずっと自分で工夫をしたり、縫い物をして道具を作るのが好きだったんです。私は特に仕事をしていなかったので、それを少しずつ売って、冬のあいだにヨセミテ以外の場所へ遠征するための費用にしていました。

自作したギアを売り、冬はなけなしの金を握りしめてヨーロッパの岩場を回った

—初めてあなたが立ち上げたブランド「グラミチ」の名前の由来を教えてください。

 ヨセミテには、世界中の国々からクライマーが集まっていましたが、その中にイタリアから来た仲間もいました。私たちはたくさんのルートのフリー化に成功して、初登ルートもたくさん開拓しました。でも、中にはすでに登られているものもあって、そんな時には「でもイタリア人としては初登攀じゃないか!」なんて、ジョークを言い合っていた。彼と登るとき、私はアメリカ人のマイク・グラハムじゃなくて、イタリア人のミケランジェロ・グラミチって設定だったのです。そのニックネームが由来です。

—一度、ビジネスから離れ、再び「ロックス」を立ち上げた理由は?

 一旦リタイアしましたが、やっぱりモノ作りへの情熱が消えず、改めて始めたブランドが「ロックス」です。ライフスタイルを意識しつつ、クライミングにも使えるパフォーマンスを持つ「エクストリームカジュアル」をコンセプトに掲げました。「ロック(岩)」と「エクストリーム」を掛け合わせた造語がブランド名の由来となっています。

デザイン性と機能性を併せ持つロックス製品。あの日、マイク自身が欲しかったウェアを形にし続けている

—現在はどのようなウェア作りを目指していますか。

 基本はクライミングのムーブがしやすいようなパターンをベースに、カジュアルにも着られるよう仕上げることです。どんなにいいものを作っても、現場でクライマーの役に立たなかったら意味がありません。この考え方は、必要な道具を自作していたころとなにも変わりません。