本州最大の湿原と美しい山々に囲まれた自然の楽園「尾瀬」。そのエリアは群馬・福島・新潟にまたがり、登山ルートも数多く存在する。そんななかから、今回は福島県側からアプローチし、「燧ヶ岳(ひうちがたけ)」に登るルートを紹介していきたい。至仏山(しぶつさん)と並び尾瀬を代表する燧ヶ岳は、東北地方と北海道を合わせての最高峰(標高2,356m)としても知られている。

 福島県側からのルートの起点となるのは、日本一人口密度が低い村として知られる山深い檜枝岐村だ。村内の御池(みいけ)登山口から山頂を目指し、下山後は山小屋が集まる「見晴(みはらし)」で1泊。翌日は燧ヶ岳が逆さに映る尾瀬沼をめぐりながら沼山峠へと戻る、贅沢な周遊ルートの魅力をレポートする。

■「御池」は燧ヶ岳への最短ルート

御池は福島から尾瀬に向かうメインの登山口

 御池は、燧ヶ岳へ最短距離で登頂できる登山口だ。距離が短い分、場所によっては急登も現れるが、ルート途中で穏やかな湿原や池塘(ちとう)を通り、景色の変化が楽しめるのが魅力だろう。御池登山口には広い駐車場やトイレ、売店、公共の宿泊施設が完備されており、マイカーでもバスでもアクセスしやすい環境が整っている。

広沢田代の穏やかな池塘。水面はまるで青空を映す鏡のよう
木道が続く熊沢田代。その先に目指す燧ヶ岳が見える
熊沢田代は2つの池塘を貫くように美しい木道が延びている

 駐車場の奥にある入山口から燧裏林道(ひうちうらりんどう)へと進むと、すぐに燧ヶ岳へと向かう登山道の分岐があり、この道を進んでいくと最初の見どころである「広沢田代」に着く。ここは6月下旬から7月にかけて白い綿毛のワタスゲが湿原を埋め尽くす名所のひとつだ。

 次に現れる「熊沢田代」は、2つの池塘の間を木道が通り、その先に燧ヶ岳を仰ぎ見ることができるビュースポットだ。7月中旬頃からはキンコウカが咲きはじめ、最盛期には湿原がまるで黄金色の絨毯のような姿へと変化していく。池塘の横にはベンチが設置されており、景色を眺めながらひと息つく休憩場所にちょうどいい。ここを過ぎると登山道は岩礫帯へと変わり、適度に息を整えつつ、ゆっくりと山頂へと登り詰めていく。

マイカーでもバスでもアクセスできる御池登山口

■尾瀬を一望できる燧ヶ岳山頂へ

俎嵓から見る尾瀬沼。手前のピークはミノブチ岳

 東北・北海道で最高峰の標高を誇る燧ヶ岳は、5つの峰から構成されており、このうちメインとなるのが「俎嵓(まないたぐら)」と「柴安嵓(しばやすぐら)」の2つピークだ。今回のルートで最初に踏むことになるのが「俎嵓」。山頂には三角点があり、立派な祠も祀られている。眼下に尾瀬沼を見下ろす大パノラマもこの山頂の見どころだろう。

俎嵓山頂に鎮座する石の祠。尾瀬沼に山小屋を開いた平野長蔵が奉納したものだという

 ここから一度、鞍部へと下って登り返すと、いよいよ主峰の「柴安嵓」に到着する。こちらの展望は、眼前には雄大な尾瀬ヶ原と、その先に至仏山がそびえる絶景が見事。山頂は開放的で景色を楽しみながら休憩するのに最適だ。

東北以北最高峰、柴安嵓の山頂標識で記念撮影
柴安嵓から見下ろす尾瀬ヶ原。天気に恵まれ至仏山も見ることができた
圧巻の景色が広がる燧ヶ岳

■見晴新道を降りて「尾瀬小屋」に1泊

テラスのカフェスペース、売店などを完備した「尾瀬小屋」

 山頂の絶景を満喫したら、見晴新道を下り、宿泊地である「見晴」へと向かう。見晴は6軒の山小屋が集まる活気あるエリアで、山小屋ごとに自慢のランチ&カフェメニューを提供している。

 数ある老舗山小屋のなかでも、2021年のオーナー交代を機に大きな進化を遂げたという「尾瀬小屋」の存在が気になっていた。そこで今回はこの山小屋への滞在を決めていた。

山小屋の前では、歩荷(ぼっか)の荷運び体験や記念撮影を楽しむことができる

 現在の「尾瀬小屋」は、一流シェフによる本格的なフレンチや洋食が楽しめるモダンな山小屋に生まれ変わっており、屋外にはパラソルが並ぶ開放的なテラス席のカフェスペースもある。山メシの常識を覆す「やまごやグルメ」というワンランク上のこだわりメニューを堪能できるのがここの大きな魅力だろう。さらに、客室の窓から尾瀬ヶ原を一望できるロケーションもすばらしく、非日常を味わいながらリラックスできるのが格別だ。

この日の夕食は豚肉のコンフィをメインにスープやデザートまでついた贅沢な内容
雄大な尾瀬ヶ原の眺めを楽しめる客室。居心地がよくのんびりくつろげる
爽やかな早朝の燧ヶ岳の眺め。山小屋に泊まらないと見ることができない景色だ
眺めも食事もすばらしい「尾瀬小屋」