九州の山奥に立ち込める湯気。車では行けないここは、最短でも2時間歩かないと辿りつけない温泉宿だ。「法華院温泉山荘」は大分県阿蘇くじゅう国立公園内の標高1,303mの場所に位置する。くじゅう連山といえば5〜6月に見頃を迎えるミヤマキリシマが有名だが、あえて寒い時期に訪れて山奥の温泉を満喫するのも大変趣深い。

 温泉があるということは火山があるということでもある。くじゅう連山一帯はかつての火山群で形成されており、現在も硫黄山を中心とした噴気警戒エリアだ。剥き出しの岩肌や立ち上る噴気などの山容には、地球が生きていることを実感できるだろう。

 かつて九州にもツキノワグマが生息していたようだが、1950年以降確認されていない。野生動物の生息地に我々が立ち入らせていただいているという意識を忘れてはならないが、クマがいないという事実は九州で登山をするうえで安心要素のひとつだ。

 今回は2024年2月に訪れた、くじゅう連山 1泊2日温泉山行の様子を紹介していく。

■長者原(ちょうじゃばる)〜 法華院温泉山荘周回コース

ルートと噴火情報を再度チェックする

 くじゅう連山には様々なルートがあるため、自分であれこれ組み合わせるのも楽しい。今回選んだルートは、長者原(ちょうじゃばる)からスタートして法華院温泉山荘でテント泊。翌日は大船山(たいせんざん)をピストンし、諏蛾守越(すがもりごえ)を経て長者原に戻るという1泊2日の周回コースだ。

 2月のくじゅう連山は当然雪の季節だ。この日は前日の雪がうっすら残る程度であり、持参したチェーンスパイクも使用せずに歩けた。しかし、訪れるタイミングによって積雪量は変化するため、装備や選ぶルートには注意が必要。

 また、くじゅう一帯が噴気警戒エリアであることに留意し、立ち入る前には必ず噴火情報も確認しておこう。

■長者原からスタート

長者原は木道があり歩きやすい

 長者原駐車場に車を停めてスタートする。約450台の駐車スペースがあるそうだが、春・秋の繁忙期には満車になることもあるので注意。駐車場からすぐの「長者原ビジターセンター」では、周辺地域の自然や文化の紹介があるほか、気温や天気などもチェックできるため情報収集におすすめだ。

 ビジターセンターの裏手にある「タデ原湿原」から旅が始まる。展望も良く、木道が敷かれていてとても歩きやすい道だ。

木々にうっすら積もる雪が美しい

 木道をしばらく進むと山道に入る。この日我々の他に登山者はおらず、落ち葉を踏みしめながら静かな森を堪能した。長者原(標高約1,000m)から雨ヶ池越(標高1,358m)までは、標高差約360mの登りだ。2月とはいえ登っていると徐々に汗ばんでくる。風が吹くと汗が冷えるのでこまめに脱ぎ着して体温調整しよう。雪に濡れた岩は滑りやすいので足運びは慎重に。

雪のついた木道は油断すると滑るので注意

 長者原をスタートして約1時間半ほどで雨ヶ池越に到着。再び木道となっており歩きやすい。森の中とは打って変わって開けた湿原と周囲の山々が見渡せて気持ちが良い。ここまでくれば本日のゴール「法華院温泉山荘」はもうすぐだ。

■山奥の温泉宿に到着

 長者原を出発して約2時間、この日のゴールである法華院温泉山荘に到着する。こちらはもともと「法華院白水寺」として開かれ、登山客のため明治時代に山宿を開始。現在お寺としては26代目になるそうだ。

 浴室は男女で分かれており、それぞれ内湯が一つずつの造りだ。大きな窓からは大船山・平次岳が一望できる。入湯料は1人500円。石鹸などは使用できないので注意。

 源泉掛け流しの湯に浸かりながら、雪のうっすら積もる山々を眺める贅沢なひとときはこの時期ならでは。冷えた身体がどんどんほどけていき、温泉という自然の恵みに大きな幸せと感謝を感じる。

温泉の隣にある休憩スペース

 館内にある自販機では酒類を購入することもできる。休憩スペースには本が並び、入浴後にゆっくり過ごすことができる。この日、我々以外に温泉利用者はいなかったため、静かなひとときを堪能した。温泉は山荘の宿泊者のほか、日帰り客も利用するので譲り合って過ごそう。

山小屋だんご

 法華院温泉山荘でおすすめなのが「山小屋だんご」だ。餡は芋と小豆の2種類で1つ250円(2025年2月時点)。

 強く掴んだら崩れてしまうほど柔らかくモチモチの皮で包まれ、中には優しい味わいの餡が詰まっている。ほくほくの状態で提供されるだんごは山荘で全て手作りされており、ここでしか味わえないのだとか。訪れることがあれば、ぜひチェックしていただきたい。

■防寒対策は万全に

温泉山荘のテント場

 法華院温泉山荘に宿泊することも可能だが、今回は併設のテント場を利用した。利用料金は1人800円。ウッドデッキが敷かれているので、ペグではなく石を使って設営していく。デッキのおかげで地面が平らなため快適だった。

 この日(2024年2月)の早朝の気温は0℃。筆者は重量との兼ね合いで夏用シュラフに上下ダウンを着用し、ナルゲンボトルを湯たんぽとして使用。また、ロールマットに100円ショップの銀マットを組み合わせて底冷え対策とした。睡眠はとれたが、朝晩は冷え込んで強い寒さを感じた。年によっては降雪があったり、氷点下になることもあるため防寒対策は必須だ。状況によって山荘宿泊を選択するのもいいだろう。