■夜明けとともに飛び立つコハクチョウの大スペクタクル!
6時を過ぎると、水面には大きな羽音が響き渡ります。コハクチョウは次々と池から飛び立っていくのです。多くのコハクチョウで埋め尽くされているのに、ぶつからずによく離陸路を確保できるものです。
高館山や八森山の裾を抜け旋回しながら徐々に高度を上げていくと「ブルル、ブルル」という羽音を残し、筆者のすぐ頭の上を越えていきました。
筆者が今まで見たハクチョウの多くは、雪山か冬のどんよりした雲を背景としたものばかりでした。しかし、鶴岡のコハクチョウは全く違う鮮やかな世界の中にいました。日本の秋の美しさを凝縮したような里山の彩の中を、真っ白なコハクチョウが浮かび上がる景色は他では類を見ないといっても過言ではないでしょう。
撮影をしていると、ファインダーの中に、「C57」という赤い首輪をつけた個体が飛び込んできました。渡りの調査をするために首輪の標識をつけられたものです。調べてみると「C57」は、4500キロも離れたロシア北東部のチャウン湾で2022年に首輪をつけられ、それ以来4年連続で鶴岡市にやって来ていることがわかりました。そんなにも遠いところから毎年この地を目指して壮大な旅をしていることを知ると、彼らの体内コンパスの正確さに驚かされるとともに、改めてこれらの池の大切さを感じました。
■昼間は「米どころ」庄内平野でお腹いっぱいに
彼らは池を飛び立ち、どこへ向かうのでしょうか。池から白色が消えた午前8時過ぎ、周囲の水田へと車を走らせてみました。すると、池のすぐ裏の水田にコハクチョウが小さな群れとなって降りているのを見つけました。
広い庄内平野は、つや姫・はえぬき・雪若丸などのブランド米で知られる日本有数の米どころでもあります。彼らは稲刈りを終えた水田で「落穂拾い」をしてお腹を満たしているのです。遠く鳥海山・月山を眺めることもできる広々とした水田は、コハクチョウにとって重要なえさ場となっています。それも、彼らがここに定着した一つの要因でしょう。