海外に住むためには、なにかしらのビザを取得しなければならない。
観光とは異なり、海外で長期間に渡って仕事や学び、暮らしを続けるには必須の条件だ。国ごとにルールや手順もさまざまで、知らずに動けばトラブルにもつながる。海外生活をするなら、まずはビザを理解することが欠かせない。
ここでは、ネパールに移住した著書のケースを例に、ビザについて考えてみよう。
■観光ビザ? 就労ビザ? それとも……
日本人が観光ビザでネパールに滞在できる日数は最大150日。それ以上滞在するなら、一度出国してまた入り直すしかない。
短期的に居座るには観光ビザは便利だが、これはあくまで通いの旅人のやり方だ。遊びに来ている感覚は抜けないだろうし、なによりネパールという国に深く関われる感じがしなかった。そんなつぎはぎのような生活は、自分がネパール移住に求めているものとは違った。
じゃあ、就労ビザか? と考えてみたけれど、これがまた険しい道のりのようだった。現地の日本人に聞くと、「ネパール人で代替できる職種には、なかなか許可が出ない」らしく、あの手この手の条件が待ち構えている。
そんなとき、ふと耳にしたのが「学生ビザ」という選択肢だった。
「ビソバサに通えば学生ビザが取れるよ」。何人ものネパール在住日本人が、そう教えてくれた。
ビソバサ? 地名か? 役場の名前か? ちょっとした呪文のようでもある。
調べてみると、どうやら学校の名前らしく、そこに入学できれば学生ビザが得られるだけでなく、ネパール語まで本格的に学べるという。僕はネパール語をきちんとマスターしたいと思っていたから、これは願ったり叶ったり。
これだ! 進むべき道がはっきり見えた瞬間だった。
■ネパール最古にして最大の国立大学
目指すべきものが定まり、具体的な情報収集がスタートした。
まずは「ビソバサ」なるものを検索する。カタカナにすると、なんだか怪しげな響きだ。ビソバサ語学スクールみたいな、どこかの私塾か個人経営の英会話教室に似たようなものを想像していた。
ところが、調べてみてびっくり。ビソバサというのは、トリブバン大学という国立大学の語学キャンパス。正式名称は「Campus of International Languages(国際語学キャンパス)」。通称「ビソバサキャンパス」。つまり、ちゃんとした大学なのだ。
しかもこのトリブバン大学、1959年創立で、ネパール最古にして最大の国立大学。4つの主要学部と5つの技術系研究所、そして60を超える構成キャンパスを抱えているという。そんな由緒ある大学に自分が? 僕は大学生になろうとしているのか?
20代に一度経験した学生生活。社会人になってからはもう二度と経験することはないと思っていたが、まさか40代後半でまたもや学生になるだなんて、想像すらしていなかった。