僕がネパールに興味を持ち始めたのは、2014年が明けて間もない頃。ふいに友人の山岳ガイドから「ヒマラヤのロングトレイルを一緒に歩かない?」と誘われたのがきっかけだった。

 しかも、その“歩く” というのが、ただのハイキングじゃない。「Great Himalaya Trail(GHT)」という長大な山道を、一緒に踏査しようというのだ。 

◼️里山としてのヒマラヤを歩いてみたい

カトマンズ行きの機内から見た、人生初のヒマラヤ山脈

 GHTとは、2011年10月1日に開通したネパールのロングトレイルのこと。ヒマラヤ山脈を貫くトレイルで、アッパー・ルート (山岳ルート) とロワー・ルート (丘陵ルート) の2本で構成されている。総延長は、前者が約1,700㎞ (標高3,000~6,000m超)、後者が約1,500km (標高1,000~4,000m超) という、ヒマラヤらしいスケールの大きな道だ。

2010年代、アメリカのロングトレイルを歩きまくっていた頃の著者

 あまりに急な話すぎて、最初はピンとこなかった。当時の僕は、アメリカのロングトレイルにどっぷりハマっていた。広大な自然の中をひたすら歩き、野営し、また歩くのが楽しかった。いわゆる、「ロング・ディスタンス・ハイキング」と呼ばれるスタイルの山歩きである。

 そんな僕にとって、ネパールなんて完全に未知の世界。行ったこともなければ、正直なところ興味を抱いたことすらなかった。ネパールについて知っていたのは、ヒマラヤ山脈がネパールにあることと、学校の授業で習った「ヒマラヤ=世界の屋根」程度の知識だった。

GHTの大半は、村人が行き交う暮らしの道

 しかも、どうやらGHTの踏査は一筋縄ではいかないらしい。最低でも5年はかかる、長丁場のプロジェクトになりそうだとのこと。

 当時38歳の僕は、会社員を辞めてフリーランスになって2年目だった。まだまだ仕事も安定していない。毎年長期のヒマラヤ旅をするとなれば、まとまった時間とそれなりのお金が必要になる。果たしてプロジェクトの一員として続けられるのか…… 不安要素ばかりが思い浮かんだ。