●太古の息遣いが聞こえる、縄文杉へ

太鼓岩からは道を下り、かつて伐採した屋久杉を搬出するために使用されたトロッコ道に入る。ほぼ平坦な長いトロッコ道の終点まで来たら大株歩道入口を進む。ここから本格的な山道が始まる。

山道を登り、標高約1,030mにある「ウィルソン株」は大きな切り株で、約400年前に豊臣秀吉の命で伐採されたといわれる。切り株内部の空間は思ったより広く、複数人入れる余裕があった。上部がハート型に見える人気のフォトスポットだ。
ウィルソン株から30分ほど歩いたところで、ヤクシカを発見した。ヤクシカはニホンジカの亜種で、屋久島の山岳地帯などに生息している。愛らしい子鹿の姿に、気持ちも癒された。

筆者は日頃、日帰りでトレッキングや低山を楽しむことが多いが、今回は2日分の水や寝袋、着替えなど予想以上の重量になり、じわじわと体力が奪われていく。縄文杉へ辿り着く頃には、筆者はへとへとになってしまったが、自分と同様の荷物に加え、テントや人数分の食料、調理器具を背負っても余裕の顔をしているガイドを、尊敬せずにはいられなかった。

しかし、縄文杉を目にした途端、今までの疲れが吹き飛んだ。高さ約25.3m、胸高周囲約16.4mの圧倒的なそのサイズ感と、こぶが隆起し力強く、凛とした姿は今まで見たなかで最も美しい巨木であった。
縄文杉は、少し離れた展望デッキから眺める。実際に触れることができないのは残念だが、根にダメージを与えることを防ぎ、縄文杉を後世に残すためと聞けば納得だ。

縄文杉周辺で過ごした後、1日目のゴールである「高塚小屋」に到着した。小屋が定員オーバーの場合はテント泊になるが、この日は月が美しい夜だったため、ガイドの提案であえて小屋には泊まらず、小屋の近くにテントを張って一晩を過ごすことに。夕食はガイドが調理してくれた軽食をおいしくいただき、月光に照らされた縄文杉に思いを馳せながら眠りについた。
●縄文杉
住所 〒891-4205 鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦
ホームページURL https://www.kagoshima-kankou.com/guide/10734
●縄文杉から「荒川登山口」へ

翌日は、朝焼けに染まる縄文杉を見るために、早朝から縄文杉の前で日の出を待った。木々の隙間からほんの少し朝日が見えたが、すぐ雲に隠れてしまい朝焼けに染まる縄文杉をじっくり見ることは叶わなかった。その代わり、朝もやに包まれた神秘的な縄文杉を目に焼きつけた。

復路は昼ごはんにガイド作のオムライスを食べて、河原でのんびり過ごす。トロッコ道では屋久島固有のヤクシマザルを観察するなど、ゆっくりと屋久島の自然を満喫した。ヤクシマザルはすぐ近くで毛繕いをしていたので、人慣れしているのだろう。15時頃「荒川登山口」に到着し、1泊2日のトレッキングを無事終えることができた。


■縄文杉の森で過ごす、かけがえのない体験
1泊2日ガイドツアーの費用は、1名参加で5万円台、2名参加の場合は1人あたり4万円台だ。今回の持ち物は、1日目の朝食と昼食、2日分の飲み物、雨具、行動食、シュラフ、シュラフマット、ヘッドランプ、インナーや靴下などの着替え、バックパック、バックパックカバーなどを準備した。
道のり自体の難易度はそれほど高くないと感じたが、重いバックパックを長時間背負うことに慣れていない筆者にとっては、思ったよりもきつかった。
もっと気軽にトレッキングを楽しみたい人は、日帰りの方がよいかもしれない。しかし、縄文杉の森で一晩過ごしたことや、朝もやに煙る神々しい縄文杉を見られたことは、かけがえのない思い出となった。気になった人は、ぜひ参加してみてほしい。
【白谷雲水峡から縄文杉】所要時間
・1日目
白谷広場(0:00)→ 苔むす森(1:50)→ 太鼓岩(2:50)→ 大株歩道入口(5:40) → ウィルソン株(7:30) → 縄文杉(9:55) → 高塚小屋(10:35)
・2日目
高塚小屋 (0:00)→ 縄文杉(0:10)→ 大株歩道入口(2:30)→ 荒川登山口(9:00)
歩行距離: 約29km
合計所要時間: 19時間35分
※この記事の情報は2025年9月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新の情報はリンク先のHPでご確認ください。