■厚着せざるを得ない、苦行の理由「歓迎したくない夏の風物詩」

イヨシロオビアブ。咬まれている自分の脚を眺めつつ撮影。案外と複雑で美しい姿をしています

 ただでさえ暑い日差しのなか、長袖を2枚重ねして防虫ネットまで被って釣りをしていました。渓流釣りをされる人ならもちろん想像がつくでしょうが、その理由はまとわりつくアブたちから身を守るためです。

 ウシアブやヤマトアブに加え、この時期の低標高の渓にはイヨシロオビアブ(オロロ、ウルル、メジロアブなどとも呼ばれる)が発生します。夏の渓流の風物詩でしょう。暑いとトーンダウンする蚊とは違って、まさに夏の申し子! 彼ら(厳密には彼女)は夏の日差しを浴びて元気いっぱいです。徒党を組んで吸血しにやってきます。

 暑さとトレードオフでの防御体制なのですが、筆者は基本的に釣りの最中にグローブをしません。そのために唯一剥き出しになっている手は無防備です。知ってか知らずか、繊細なドリフトをしている最中はアブたちの格好の標的とされているのでしょう。手の甲の痛みをただ感じながら、流れに漂うフライを操作し続けるのみです。

熱中症にならないよう、日陰で休みつつ釣りを続けました

 思わしい釣果を得られないまま退渓地点まで来てしまいましたが、汗と沢水でびしょ濡れになりながらの釣りの時間は、それでいても至福のひとときでした。

 帰路、日中の釣果だけでは満足できず、町内を流れる下流部でふたたびロッド振りました。移動の都合もあり短時間勝負ですので、手にしたのはルアーロッドです。橋の上から眺めて狙うべきポイントを見定めて入渓。流心にルアーを通すと、何度かアタリを得たのちにずっしりとしたヤマメの感触を得ました。ようやく溜飲を下げ、あらためて家路に就いたのでした。夕食の時間ギリギリまで外で遊び回っていた少年時代、その頃と変わらない自分に少々苦笑いです。