■「寄生」をするのは簡単ではない

 虫の世界では生存戦略として「寄生」という手段を選択しているものは少なくない。寄生というと、ずるい/おぞましい/怖い、というマイナスのイメージを持つ人も多いかもしれないが、じつは寄生というのは簡単にできることではない。むしろ、それぞれが知恵と工夫を凝らしたすごい生存戦略であると言えるだろう。

 例えば、寄生をする虫として知られたものに「トゲアリ」がいる。胸部が赤く、トゲ状の突起を持つ、かっこいい姿のアリだ。

トゲのような突起が名前の由来になっているトゲアリ

 このトゲアリの女王は、クロオオアリやムネアカオオアリという別種のアリの巣内に侵入し、巣内の女王を殺して乗っ取る、という生態を持つ。ただし、巣を乗っ取るのは簡単ではない。

 1つ目の難関は巣内に侵入することだ。正面からただ侵入すれば、巣内の働きアリたちから総攻撃を受けてしまう。そこで、まずは単独の働きアリを見つけ、その首や腰に噛みつき、その状態のまま相手の体を触り続ける。これにより、”相手の匂い”を自分の体につけるのである。アリは暗い巣の中で生活しているため、視覚よりも嗅覚が発達している。そのため、巣内のアリと同じ匂いになることで、攻撃されにくくするのだ。

 2つ目の難関は女王に成り変わることだ。巣内に侵入すれば、もう逃げ場はない。巣内の働きアリに正体に気付かれる前に女王を殺し、殺した後も巣内の働きアリに偽物とばれてはならない。そのため、女王を殺すときには、巣内に侵入するときにしたことをより入念に行う。巣内の女王の首や腰に噛みつき、生かさず殺さずの状態で”何日間も密着し続ける”のだ。こうして女王のにおいを身に纏うことができるまで耐え、見事に成り変わることができたら、産卵してトゲアリの働きアリを増やしていくのだ。

 このように、トゲアリの寄生を成功させるためには慎重に、いくつもの手順を踏んでいく必要がある。実際、トゲアリの寄生の成功率は非常に低いようだ。

 虫には他にもさまざまな寄生をするものがいるが、それぞれが異なるハードルを乗り越えて実行しているのだ。

■寄生行動を観察してみよう

 寄生の仕方によって難易度や成功率は変化すると思われるが、どの寄生もさまざまな知恵や工夫によって成立している。この寄生を行うのには、どのような工夫をしているのだろうか。そう考えて観察すると、同じ行動を見ても、また新たな発見があるのではないだろうか。

 初夏には、そんなツチスガリとハラアカマルセイボウの巧みな生存戦略が見られる可能性がある。ぜひ、小さな穴に注目して歩いてみてほしい。