■小さく元気な魚たちに元気をもらった今年の春釣行

春は、前年から続く長い冬眠期間からアングラーたちが目覚める時期である。この時期には、需要の高まりに合わせて九州周辺の海では「春ヒラマサ」・「マダイの乗っ込み」というフレーズを各所で聞くようになる。
毎年このフレーズに踊らされている筆者は、今年も外気温が15℃になったのを確認して、熊本県上天草市へと赴いた。去年と同じ堤防、同じ釣り方で、大好きなヘダイを釣るためだ。筆者の脳裏には去年のあの引きの強さの余韻が残っていた。片道4時間を経てたどり着いた上天草の某堤防に降り立ってみると、去年は見かけなかった重機がずらり。嫌な予感が頭をよぎった。なに、釣れるだろうと自分に言い聞かせて、意気揚々と釣りを開始した。
ところが、昼から夕方まで投げ倒すもなにも釣れない。いっさい反応がない。よく見れば、去年ヘダイを釣った白い小さな堤防がなくなっている。隣でちょい投げをしていたはずの夫もいつの間にか片付けの準備を開始していた。
いい加減、体も心も寒くなってきたころ、同行していた母が筆者の様子を見に来た。大物を夢見て手当たり次第に遠投を繰り返す筆者を心配してか「足元になんかおるよ」とつぶやいた。
確かに、いる。通称「コッパグレ」と呼ばれている小型のグレである。春の海の宝物は、足元にちりばめられていた。
■小さな魚の正体は「コッパグレ」だった!

結局、その日ヘダイは釣れなかった。釣りはメンタルスポーツというが、並ぶはずの魚がいない夕食を見てわびしさに包まれた。
翌朝、海沿いのコテージを宿にしていた筆者は、目の前に広がる有明海を見てふと思い出した。釣り漫画『釣りキチ三平』で、アメリカからやってきたアングラーが、小さいほど価値があるとされる日本のタナゴ釣りを体験して「Big game!」と喜んでいた。釣りの楽しさは魚の大小で図れるものではないということを思い出したのだ。持参していた釣り具から、小物釣りに使えるアジングロッドを取り出し、オモリと釣り針が一緒になった1gのジグヘッドにエサのオキアミをつけてコッパグレを狙ってみることにした。
春を待ちわびて魚に飢えていた筆者にとっては、これで釣れなければもはやこの有明海に魚はいないのだと諦めがつく。
足元の海にジグヘッドオキアミを落とした。するとすぐさまククッと小気味良い反応があった。2か月ぶりの生命感を手元に感じた時の高揚感は、言葉に代えがたいものがあった。
