色彩豊かな湖群のエリアを過ぎるといきなり、まるで火星のような景色が現れた。さっきまでの緑の絨毯は消え去り、あたり一面茶色とグレーの世界に早変わり。アルプスの高地登山道で見慣れた色彩が現れると、3,000m付近まで登って来たことがわかる。道幅は広くて歩きやすそうで、パッと見はなだらかに見えた登り坂だが、歩いていくうちにかなり足取りが重くなってきた。
一歩一歩踏みしめながら道を進む。最後の小山を這うように登り切って、ようやく最初の目的地である標高3,084mのレイニール峠に到達した。ここから周囲の景色を眺め回すと、まるで別の惑星に降り立ったような不思議な感覚を味わえる。晴れていてば、モンブランや巨人の歯など4,000m級の山脈の大パノラマがここから楽しめるのだが、生憎だんだんと雲が湧いてきて目の前は真っ白になってきた。最終目的地のタオウ・ブランク山頂はここからまだ1時間ほど登ったところにある。山頂に着くまで天候が荒れないことを祈りつつ、休憩もそこそこに再び歩き出した。



■真夏から真冬へ急展開! 霧に阻まれ登頂を断念
レイニール峠から見るとすぐ目の前にあるように感じられたタオウ・ブランク山頂だったが、ここから400m弱の高低差を登っていくのは想像以上にキツい。しかも天候は悪くなる一方で、視界は霧で一面真っ白になり、時折みぞれ混じりの雨も落ちてくる。防寒具は持ってきたものの、それでも足元から寒さが這い上がってくる。真夏から一気に真冬に切り替わった天候に、身体もびっくりしているようだ。30分ほど登ったところでいよいよ霧が濃くなり、前方が全く見えなくなってしまった。あと一歩のところで断念するのは悔しかったが、山頂へ着いても何も見えないのだから、と言い聞かせて諦めることにした。またいつか、この山を制覇しに戻って来よう。楽しみがひとつ増えたと思えば心も明るく、帰路は再び緑の絨毯に癒されながら軽い足取りで山を後にした。


文・写真/田島麻美