イタリア国内のグライエ・アルプス最高峰「グラン・パラディーゾ」。モンブラン、マッターホルンに比べると日本ではまだあまり知られていないが、欧米の登山愛好家にとっては魅力的な登山道が集まる山塊として人気の山で、家族連れから高齢者まで、多くの人々に親しまれている。
イタリア語で「大いなる楽園(パラダイス)」という意味のグラン・パラディーゾは、その一帯の山塊を含めて1922年にイタリア最初の国立公園に指定され、以来、その壮大な自然の中に生息する植物や野生動物などが厳格に保護されてきたエリアでもある。ヴァッレ・ダオスタ州のコーニュを中心に、70,000ヘクタール以上の面積を持つグラン・パラディーゾ国立公園内には、初心者からプロまで、山愛好家を飽きさせないさまざまなルートが揃っている。今回は、グラン・パラディーゾ初心者におすすめのトレッキングルートをご紹介しよう。
■国立公園内で最も簡単なトレイル・ルート
グラン・パラディーゾの拠点となるコーニュの村から、多彩な登山ルートのスタート地点がある周辺の村々までは、バカンスシーズン中(6月中旬〜9月上旬)なら無料のシャトルバスでアクセスできる。今回ご紹介するロイエ湖のトレッキング・ルートの出発点となるリッラズ(Lillaz)の村は、コーニュから3km離れた場所にあり、シャトルバスなら10分ほどで着く。
リッラズは、アオスタ渓谷でも指折りの名爆「リッラズの滝」がある村として知られている。グラン・パラディーゾ国立公園内で最も簡単なトレイル・ルートがあるリッラズの滝周辺では、小さな子ども連れの家族はもちろん、登山装備なしのツーリストの姿も見られる。高さ150mの3つの滝からアルプスの清水が豪快に流れ落ちる様は、眺めているだけで清々しい気持ちになれる。標高1,611mに位置するリッラズの滝をスタート地点に、2,346mにあるロイエ湖を目指す。
トレイル標識12に沿っていよいよ登山ルートへ入る。最初は急な登りが続き、一気に600mの高低差を登っていくことになる。しかしながら、登山道は深いカラ松の森の中にあり、真夏でも涼しい木陰の道を歩くので、苦もなく足が進む。時折、薄暗い森がひらけ、渓谷の美しいパノラマが望めるのも楽しい。
ルートは森を抜けた後、岩場があったり、広い草原が現れたりと、非常に多彩な風景が楽しめる。森を抜けると西側に、モンブラン山頂がチラっと見えてくるのもこのルートの醍醐味だ。草原のエリアでは、アルプスマーモットやシャモアなど、野生動物に遭遇できる可能性も高い。長い間厳格に保護されてきた国立公園ならではの美しい大自然を体感できるのは何よりも貴重だ。
涼しい木陰が続いたカラ松の森を抜けると、大きな岩がゴロゴロと転がっている岩場や広い草原が現れてくる。トレイル全体の標高差は735mだが、森を抜けた段階で登りはほとんど終わり、後は湖まで比較的平坦で広い登山道が延びている。標高2,200m前後のこの平坦な空き地エリアに出て周囲のパノラマを見渡すと、グラン・パラディーゾ山塊でも一際目を引くグリヴォーラ山の山頂がその雄大な姿を現す。