■かつてイタリア国王の狩猟場だった歴史ある村
トリノの北西約90km、グラン・パラディーゾ国立公園内にあるチェレソーレ・レアーレは、アルピニストなら誰でも一度は行ってみたくなる山の魅力にあふれている。村の中心に位置するダムを備えたチェレソーレ湖は2,000mを超える山々にぐるりと取り囲まれていて、居住地があるエリアは全て標高1,500m以上の高地にある。険しい渓谷の真ん中にポツンとある村は、周囲との標高差が非常に大きいため、前世紀までは徒歩でしかたどり着くことができなかった。
1862年以降、チェレソーレは当時のイタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世より「王室」の称号である「レアーレ」の名を授けられた。これは、このエリアに生息するシャモアとアイベックスの狩猟許可を国王が市に与え、自身もしばしば狩猟を目的にこの地を訪れたためと言われている。
18世紀、体に魔法の力を備えていると信じられていたアイベックスは王侯貴族などによって狩り尽くされ、ヨーロッパ全土で絶滅したと考えられていた。ところが、このグラン・パラディーゾ山塊の崖の間に100体ほどが奇跡的に生き残っていたのである。ヴィットーリオ・エマヌエーレは、狩猟活動を独占的に行うという形でグラン・パラディーゾ王立保護区を設立し、以来、王の狩猟場としてこの村へのアクセスも整備されていった。
現在は車の他、トリノからローカル電車とバスを乗り継いでアクセスが可能になっているが、それでもモンブランやマッターホルン周辺に比べると、公共交通でのアクセスはあまり良くない。そのため、夏のバカンス最盛期でも観光客の姿を見ることはほとんどなく、ここをベースに周囲の3,000m超の山々を歩き尽くしたいという生粋の山好きが好んで集まる場所となっている。



