■人類の足跡が刻まれた岩の道を歩く

 幾たびもの戦争や自然破壊によって崩壊と再建を繰り返してきたアテネのアクロポリスだが、その起源は新石器時代にまで遡るという。紀元前6千年という古の時代からこの岩の上に人々が暮らしていたのかと思うと、時の重みが足元からひしひしと伝わってくる。エーゲ海から吹き上げてくる強い風と舞い上がる砂に目を覆いながら、すり減った足元の岩の道を見つめる。紀元前6千年から現在まで、気の遠くなるような時の流れの中で、いったいどれだけの人間がこの場所に立ったのだろう。

 「高い丘の上の都市」を意味するアクロポリスは、古代ギリシャ時代において既に都市国家として機能していた。ヘリコプターもクレーンもない時代に、こんなに高い丘の上に井戸を造り、巨大な建築物を次々と建て、文明と芸術を発展させていったのだ。現代の私たちの暮らしと古代ギリシャ時代の暮らしを比べると、どちらが豊かと言えるのだろう。今から何千年も後の人類に、私たちが残せるものは何なのだろう。アクロポリスの最奥北端に旗めく巨大なギリシャ国旗と眼下に広がるアテネ市街を眺めながら、古の時代から脈々と営まれてきた人類の暮らしに思いを馳せた。

新石器時代から人が暮らしていたというアクロポリスの岩。凸凹に歪んだ道には人類の足跡が刻まれている
約3ヘクタールの面積を誇る巨大な一枚岩の丘の北端からパルテノン神殿を望む

文・写真/田島麻美