「冬はつとめて」とはご存知、随筆『枕草子』の一節だ。意味は「冬は早朝が一番趣深くて最高!」 清少納言は冬の朝の雪が積もっていたり、霜が降りる様子をすてきと表現したが、雪が降らなくても冬は空気が澄んでいて気持ちがよいものだ。

 この時期は空気が乾燥しているため、チリやホコリが舞いにくく、空が澄んで見えるのが特徴。日が落ちるのが早い今、朝活としてハイキングを楽しみ、午後はゆっくり家で過ごすのもよさそうだ。今回はそんな朝活にもぴったりの神戸市の六甲山系の一つ「摩耶山(まやさん)」のハイキングルートや道中の景色を紹介する。

■摩耶山とは

 六甲山系は、標高931mの「六甲山(ろっこうさん)」を最高峰とする兵庫県南東部に位置する山地。摩耶山(標高約702m)はその中で2番目に標高が高い。山頂エリアにはお釈迦さまの聖母、摩耶夫人を祀った天上寺があり、江戸時代以前から馬の息災と一家の無事繁栄を祈る、摩耶詣という風習があったほど、昔から地元民の生活に欠かせない山だ。

■渓流沿いを歩く青谷道ルート

青谷道登山口からの様子。登山道は整備されていて歩きやすい

 摩耶山には複数の登山ルートがあるが、今回は旧摩耶山天上寺への参詣道の一つ、青谷道ルートを選択。登山口への最寄り駅は阪急電鉄・王子公園駅やJR西日本・灘駅で、灘駅から青谷道登山口までは歩いて30分ほど。王子公園や海星女子学院中学校・高等学校に沿うように歩いていく。登山道に着くまでも結構な坂道で、これを毎日通学する学生には感心する。

 登山道に到着すると、それまでの市街地からガラッと雰囲気が変わる。いかにも神戸らしいモダンな街並みが一転、青谷道に入ると木々が生い茂り、非日常に足を踏み入れた感覚になる。

 渓流沿いに道が続いていくが、登山者が多いため道は整備されていて歩きやすい。また、この日は風がやや強かったが、道中は周囲の木が風をガードしていたのか、風が冷たくて手足がかじかむこともなかった。

仁王門の後は石段が続く

 渓流沿いの登山道が終わると、仁王門に到着。ここからはひたすら石段が続く。もともと天上寺はこの石段を登った先に建立されていたが、昭和51年の放火でほぼ焼失してしまった。その時の放火から免れたのがこの仁王門だ。かつては仁王像が立っていたが、現在は移転した天上寺の中に収められている。

 どっしりとした門構えからは、当時の天上寺の名残が感じられる。自分が生まれる前の天上寺に思いを馳せながらお菓子を補給して、いざ石段登り。しかし、この石段がキツい。今までは足を前に運ぶ作業だったのが、ここからは上に上げる作業が追加されるため、次の日は太ももがパンパンになった。

■1000万ドルの夜景は、午前中に見てもキレイ

眼下に広がる神戸の街並み。奥の方には大阪市内も確認できる

 一生懸命石段を踏みしめて、登山口から約1時間15分で今日の目的地、掬星台(きくせいだい)へ到着。石段が大変だと思ったが、よく考えると1時間ちょっとで標高690mまで登っているので、なかなか頑張った。摩耶山の山頂はもう少し上にあるが、頂上よりも掬星台展望台のほうが開けていて景色がよい。

 掬星台からは神戸市内や、大阪市内の街並みを一望できる。夜は1000万ドルの日本三大夜景が眺められる場所として有名な摩耶山だが、日中でもその景色は十分に価値がある。早い時刻に訪れれば、朝焼けもきれいに見えそうだ。余談だが、夏の朝焼けと冬の朝焼けは空気の湿度や太陽の角度の関係で色味が違うそうだ。同じ場所で夏と冬の写真を見比べてみるのも楽しいかもしれない。

 なお、掬星台は木が少ないので風あたりが強く、寒かった。ここでゆっくりする予定があるなら、リュックに羽織物を一枚しのばせておこう。

階段を登り終えると一気に視界が開け、青空が広がる
登った時期は12月上旬。ハイキング中は寒くなかったが、掬星台では15分の滞在が限界だった
朝活ハイキングをして、神戸の街並みを眺めながら飲むコーヒーは最高