山梨県は2024年11月18日、富士山の麓と五合目を結ぶ有料道路「富士スバルライン」で導入を検討していた鉄軌道による交通システム「LRT(次世代型路面電車)」を断念、これに替えてゴムタイヤ式の交通システム「富士トラム」構想を発表した。トラムとは鉄軌道式やゴムタイヤ式を含む路面電車の総称である。

 同県はこれまで、課題となっていた富士登山における混雑緩和の対応策としてLRT導入の検討を進めていたが、建設に反対する地元団体との対話を2024年11月13日に実施。会合の内容を踏まえ、環境への影響やコスト面などを考慮し、富士トラムへの方向転換を図った格好だ。

 いまのところ、富士トラムは構想段階とされているが、実現すれば鉄軌道式からゴムタイヤ式に変更されたことで、ハイカーや登山者にどのような影響があるのだろうか。山梨県知事政策局富士山保全・観光エコシステム推進グループ 和泉正剛(いずみまさたけ) 推進統括官に話を聞いてみた。

■軌道修正された富士山登山鉄道構想

鉄軌道から方向転換したゴムタイヤ式のトラム(写真提供:山梨県)

 富士トラムの構想が実現すると、ハイカーにはどのような影響があるのか。和泉氏によると、富士登山最大の課題は、登山口までの道路や登山道の混雑にあると言う。山梨県では2024年に入山規制を実施し、ある程度のコントロールを可能にしたことで手応えを掴んだ。そのさらなる一手として用意していたのが、富士山の麓から5合目までの混雑緩和を狙った「富士山登山鉄道構想」だ。これが11月にゴムタイヤ式の富士トラムとなったのは先述の通りである。

 ゴムタイヤ式の路面電車となっても法律上は鉄道扱いとなり、富士スバルラインの一般車通行禁止となることから、混雑緩和になると期待されている。和泉氏は「ハイカーや登山客にとって、最大のメリットは混雑の緩和が大きいと思います」と強調する。

■バスより大きいゴムタイヤを使用する「富士トラム」。その特徴は?

車両のタイヤ部分。車内外はバスよりも大きくて広い(写真提供:山梨県)

 山梨県が公開したトラム車両の写真は、3連節の長い車両となり、座席や荷物置き場などのレイアウトなどは未定であるものの、縦に長い空間が確保できる見込みだ。

 和泉氏は「現段階でこの車両の採用が決定したわけではないが、富士トラムは基本的にバスよりも車体が大きく車内も広いため、大きなザックなどを背負った登山者にとっては、これまでにない快適な空間を提供できるはず」と自信をのぞかせた。

 鉄軌道のLRTからゴムタイヤ式の富士トラムに方向転換したことで、建設・維持コストを大幅に削減できる点にも注目が集まっている。LRTでは往復の乗車料金を1万円の想定で収支計算を行っていたが、ゴムタイヤ式ではレールが不要となる点が大きく、建設・維持費を大幅に削減でき、運賃をどこまで低く抑えられるかが、今後の明るい検討材料だ。