■虫が移動するのに利用している
手すりや柵を「移動手段」としても利用している虫は多い。シーズンによっては、手すりが虫で大渋滞していることもあるほどだ。
では、手すりならいつでもどこでも虫がいるかというと、そういうわけではない。虫が多く見つけられる手すりには条件がある。その条件とは、“手すり周辺に樹木や雑草が生えている”こと。樹木や雑草から虫が手すりに移動するからだ。周辺環境によっては、カミキリムシやゾウムシ、バッタ類など、思わぬ大型の虫に出会える手すりもある。特に、手すりから1m以内に植物があるような場所は、出会える虫の数も多くなるように思う。
手すりを移動手段として利用する代表的な虫といえば、イモムシだろう。
普段、樹木や草の上で活動しているイモムシは、鳥などの天敵による危険を感じた際に葉や木の枝から“落ちて”回避するものが多い。落下したイモムシたちは、地面から樹木に戻るために(あるいは樹木と間違って?)手すりに上る。そうして、手すりには多くのイモムシが集まるのである。
■集まった虫を食べる虫がいる
手すりに集まった虫を「捕食」する虫も見つかる。手すりにはたくさんの虫が集まるうえに、逃げ場も限られるため、捕食型の虫も集まってくるのだ。
手すりでよく見られる捕食型の虫には、サシガメ類やカマキリ類、クモ類などがいる。そのなかでも、ハエトリグモの仲間は、特にバラエティ豊かな種が見られる。ハエトリグモは糸を張って引っ掛かるのを待つのではなく、獲物に飛び掛かって狩りをする、ハンタータイプのクモだ。
ハエトリグモの仲間には、例えば「アリグモ」がいる(アリグモには類似種の虫が複数種いる)。アリグモは姿がアリによく似ているだけでなく、前脚を触角のように動かしたりするなどして、巧みにアリに擬態している。手すりには本物のアリもいるため、人間もその擬態に引っ掛かるほどだ。
オスの場合は大きな顎を持つのでアリとは体のシルエットが異なるが、メスはそれもそっくりだ。見分けるには、脚の数(アリは脚が6本、アリグモは脚が8本)、顔(アリは複眼が2つ、アリグモは単眼が8つ。正面から見ると、ハエトリグモらしい2つの大きな単眼が目立つ)に注目して観察すると良いだろう。
■手すりは冬でも虫を探せるスポット
ご紹介した通り、手すりは冬であっても虫に出会える可能性が高いスポットである。出会える虫の種類は、季節によって変化する。冬に活動するフユシャクという蛾の仲間や、夏よりも冬の方が出会いやすいヒゲナガサシガメ(幼虫越冬)など、“冬らしい虫”を観察できることもある。
特に、冬でも暖かい日には、手すりの上で虫が活動していることが多くなる。そのような日には、ぜひ手すりに目を向けてみてほしい。