■“ガトーショコラ”と出会う展望台「槍ヶ鞘」と「トーミの頭」

車坂峠にある「高峰高原ビジターセンター」。冬季も営業するとのこと(木曜定休)

 当日の道中、空はすっぽりと雲に覆われており、普段なら浅間山を眺めることができる場所からも全く見えませんでした。しかし、曲がりくねった山道を走っていると、標高を上げるにつれ雲が薄くなり気づけば雲の上に。眼下に見事な雲海が広がる景色のなか、高峰高原ビジターセンターの駐車場に車を停めました。

 「車坂峠(1,973m)」から道標にしたがって「トーミの頭」を目指します。山に向かって右は表コース、左は中コースで、往路は表、帰路に中コースを利用することが多いのですが、今回もその計画です。

車坂峠の登山口。「表コース」「中コース」の分岐があります

 登山口の気温はちょうど0℃。吐く息は白く、目の前の景色はうっすらと雪に覆われていました。緩やかに登っていく登山道をしばらく進むと、日陰の急斜面を下ります。雪こそ少ないものの、凍りついた道はむしろ滑りやすく、慎重に下りました。ふたたびじわじわと標高を上げていきます。

うっすらと雪化粧した森は明るく輝き、おとぎの国に迷い込んだよう

 開けた場所では雲海の向こう島のように浮かぶ山々の眺望が見事で、富士山も確認できました。それにしても、冷えた空気のなかに光り輝く森の景色は儚げで美しく、つい足を止めてカメラのシャッターを切ってしまいます。避難シェルターを通り越すと、いよいよ浅間山とのご対面です。

 ついに雪化粧した森の向こう、白く粉砂糖を振りかけられたような浅間山が姿を見せました。空は見事なまでに青く澄んでいます。期待以上、吸い込まれそうなほど印象的な光景でした。

「槍ヶ鞘(やりがさや)」から見る“ガトーショコラ”、浅間山

 一度浅間山は見えなくなりますが、コル状の「槍ヶ鞘(やりがさや)」で再会します。暗いトーンの山肌に白い粉砂糖を優しくかけたような雪が積もり、まさに巨大な“ガトーショコラ”です。左手にはトーミの頭へと続く斜面が荒々しく立ち上がっており、浅間山の穏やかな姿とのコントラストが際立っていました。

「トーミの頭」への登りは傾斜がやや強いです。下る頃にはさらに泥々の道になっていました

 トーミの頭へは傾斜もあり、岩がゴロゴロと転がる少々険しい道となります。日当たりがいいために、凍っていた水分が溶けて登山道はすっかりぬかるんでいました。

 溶岩が積み重なったようなトーミの頭は完璧な展望台です。“ガトーショコラ”、浅間山はもちろん、富士山、八ヶ岳中央アルプス北アルプスの稜線もすっきりと見晴らすことができました。妙義山、北関東の山々や上越国境の雪深い山々も白く輝き、山々を数えだすと枚挙にいとまがないほどです。

四方を見渡せる「トーミの頭」では、山頂感もたっぷり味わえます

■黒斑山を目指して森の稜線歩き、下山は中コースで

すっかり白くなっていた木々は陽光に輝き、その美しさにすっかり目を奪われました
黒斑山山頂より。標高が上がり、「湯の平」と“ガトーショコラ”、浅間山を一望できます

 さらに木々に覆われた稜線歩きを20分ほど続けると、黒斑山頂上に到着します。山頂は稜線上にあるためピークらしい印象は薄く、途中に何か所かある視界が開けた場所と差があまりないのですが、正面に浅間山、目線を下げればボウル状に広がる「湯の平」を一望できます。眺めに満足したためにここをゴールとし、下山は中コースで車坂峠へと戻りました。

 日陰がちな森の中、凍った道はかなり硬くなっています。それでいて石もゴロゴロしているので、少々歩行に気を遣うコンディションでした。一帯は標高こそ高いのですが、積雪量はそれほど多い地域ではありません。ラッセルに苦労することこそ少ないものの、うっすらと登山道を覆った雪や氷は歩きにくく、かといってアイゼンやチェーンスパイクなどを装着すると逆に歩きづらいことも。スムーズに着脱できるように準備、練習しておくのが行動時間を短くするコツかもしれません。

「中コース」の途中で。やや暗めの森の中ですが、ときおり日差しが入ると美しい光景に足取りも軽くなります

 日当たりのいい稜線の木々は日射を受けてパラパラと白い塊を落としていました。下山する頃には季節が戻ったように、美しかった白銀の景色はすっかり色褪せてしまっていました。なかなか本格的な冬が訪れないこの季節、“ガトーショコラ”の雪景色を味わうためには、天気予報と睨めっこしながらチャンスを狙う必要がありそうです。